一 控訴審が事実の取調をした以上、第一審の無罪判決を破棄して有罪を認定するにあたり、第一審において取り調べた証拠のみを挙示することはなんら違法でない。 二 原判決が全体の趣旨において引用の判例と異る判断をしたものというだけで、そのいかなる部分が引用の判例のいかなる部分と異るのか具体的に明らかでない主張は、上告理由として不適法である。
一 控訴審において破棄自判する場合と証拠 二 判例違反の主張として不適法な事例
刑訴法400条但書,刑訴法405条2号,刑訴規則253条
判旨
控訴審において事実の取調べを行い、被告人に防御の機会が与えられたのであれば、第一審の無罪判決を破棄して有罪を自判する際、第一審で取り調べた証拠のみに基づき有罪を認定しても違憲ではない。
問題の所在(論点)
控訴審が第一審の無罪判決を破棄して自判で有罪を認定する場合において、控訴審で事実の取調べを行い防御の機会を与えていれば、第一審で取り調べた証拠のみに基づいて有罪を認定することは許されるか。刑訴法400条但書の自判の限界と適正手続の要請が問題となる。
規範
控訴審が第一審の無罪判決を破棄して被告人を自ら有罪と認定する(刑訴法400条但書)にあたっては、被告人に対し実質的な防御の機会が保障されていることが必要である。控訴審において改めて事実の取調べを行い、被告人及び弁護人がその結果に対して反論・防御を行う機会が与えられていたのであれば、証拠の採否や評価の結果として第一審の証拠のみに基づくこととなったとしても、適正手続(憲法31条)等には反しない。
重要事実
第一審で無罪判決を受けた被告人に対し、検察官が控訴した。控訴審(原審)では、被告人及び弁護人の出頭のもと、犯罪事実に関する事実の取調べとして、証人Aほか3名の尋問が行われた。その後、控訴審は、第一審が認定しなかった犯罪事実の存在を確定し、第一審判決を破棄した。その際、有罪認定の根拠として掲げられた証拠は、いずれも第一審において既に取り調べられていた証拠のみであった。これに対し被告人側は、新証拠に基づかずに無罪を破棄して有罪を認定することは違憲であると主張して上告した。
あてはめ
本件において、控訴審は第3回公判調書によれば証人Aらの尋問を実施しており、事実の取調べを行っている。この手続を通じて、被告人側には犯罪事実の存否について防御権を行使する機会が十分に与えられていた。このような適正な手続を経ている以上、認定の基礎となる証拠が結果的に第一審で取り調べられたものに限定されていたとしても、それは証拠評価の範疇に属する。したがって、第一審の無罪判決を破棄して有罪を認定するプロセスに憲法違反や手続上の違法は認められない。
結論
被告人に防御の機会が与えられていた以上、第一審の証拠のみを掲げて無罪を破棄し有罪を認定することは妨げられない。上告棄却。
実務上の射程
刑事訴訟法400条但書の「自判」の合憲性に関する判例である。控訴審での事実取調べが、単なる形式的なものではなく、被告人の防御権を実質的に担保するものであれば、証拠の範囲が第一審と同じであっても自判が可能であることを示している。司法試験においては、控訴審の自判の可否や、直接主義・口頭主義との関係で論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和31(あ)4239 / 裁判年月日: 昭和33年5月1日 / 結論: 棄却
本件の第一審判決説示のごとく詐欺の意思を除く以外の事実は、すべて認められると認定しているような場合には、被告人を公判廷で公訴事実その他につき質問し、原控訴判決が証拠とした被告人の検察官に対する供述調書の措信すべきや否や等につき取調をなせば、その余の証拠につき直接取調をしなくとも、控訴審が被告人の犯罪事実の存在を確定せず…
事件番号: 平成29(あ)2073 / 裁判年月日: 令和2年1月23日 / 結論: 破棄差戻
第1審判決が公訴事実の存在を認めるに足りる証明がないとして,被告人に対し,無罪を言い渡した場合に,控訴審において第1審判決を破棄し,自ら何ら事実の取調べをすることなく,訴訟記録及び第1審裁判所において取り調べた証拠のみによって,直ちに公訴事実の存在を確定し有罪の判決をすることは,刑訴法400条ただし書の許さないところと…