控訴裁判所は、控訴記録卸び第一審で取り調べた証拠のみによつて直ちに判決することができると認める場合でも、常に新たな証拠を取り調べた上でなければ、いわゆる破棄自判ができないものではない。
刑訴第四〇〇条但書の法意
刑訴法400条但書
判旨
控訴裁判所が第一審の無罪判決を破棄して自ら有罪を言い渡す場合、必ずしも新たに独自の証拠調べを行う必要はなく、第一審の公判調書等の記録のみに基づき事案を審理して判決をしても違法ではない。
問題の所在(論点)
控訴裁判所が、第一審で取り調べた証拠(公判調書等)の記載内容のみに基づき、事実取調を更に行うことなく、第一審の無罪判決を破棄して自ら有罪の判決を下すこと(破棄自判)は許されるか。
規範
刑事訴訟法400条但書の規定によれば、控訴裁判所は訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠のみによって直ちに判決することができると認める場合には、必ずしも新たな事実の取調や証拠調べを要せず、破棄自判が可能である。また、第一審において証拠とすることができた供述調書等は、控訴審においてもそのまま証拠として採用できる(刑法394条、404条)。
重要事実
被告人は詐欺の罪で起訴されたが、第一審は無罪を言い渡した。これに対し検察官が控訴したところ、控訴審は自ら独自の証人尋問等の事実取調を行わず、第一審の公判調書(被告人供述や5名の証人尋問結果の記載)及び書証といった書面審理のみに基づき、第一審の事実認定を覆して有罪を言い渡し、懲役8月に処した。被告人側は、直接審理主義の観点から、新たな証拠調べなしに無罪判決を破棄して有罪を認定することは違憲・違法であると主張して上告した。
あてはめ
刑事訴訟法上の控訴審は事後審としての性格を有しており、第一審判決の当否を訴訟記録等の調査により判断することを原則とする。本件において、原審(控訴審)は第一審の公判調書等に基づき心証を形成しているが、これらの証拠は第一審において適法に取り調べられたものであり、控訴審においても証拠能力を有する。控訴裁判所が「直ちに判決することができる」と判断した以上、法400条但書に基づき書面審理のみで有罪認定を行うことは、直接口頭審理主義や適正手続きの趣旨に反するとはいえず、法的に許容される適法な手続である。
結論
控訴裁判所が、新たに直接の事実取調を行わず、第一審の証拠記録のみに基づいて無罪判決を破棄し、自ら有罪を言い渡すことは違法ではない。
実務上の射程
本判決は控訴審の事後審的性格を強調し、書面審理のみによる逆転有罪を肯定する。しかし、現代の実務や後の判例(最判昭57.5.27等)では、直接審理主義・口頭試問主義の観点から、第一審の証人等の供述の信用性判断を覆す場合には、原則として控訴審自らも証人尋問等を行うべきであるとの修正が図られており、本判決の法理をそのまま適用することには慎重な検討を要する。
事件番号: 昭和31(あ)4239 / 裁判年月日: 昭和33年5月1日 / 結論: 棄却
本件の第一審判決説示のごとく詐欺の意思を除く以外の事実は、すべて認められると認定しているような場合には、被告人を公判廷で公訴事実その他につき質問し、原控訴判決が証拠とした被告人の検察官に対する供述調書の措信すべきや否や等につき取調をなせば、その余の証拠につき直接取調をしなくとも、控訴審が被告人の犯罪事実の存在を確定せず…