判旨
控訴裁判所が事実の取調べをすることなく、訴訟記録と第一審の証拠のみに基づき、第一審の量刑を不当として被告人に不利益に変更することは、憲法および刑訴法に違反しない。
問題の所在(論点)
控訴裁判所が、自ら事実の取調べを行うことなく、第一審の証拠資料のみに基づいて第一審よりも重い刑を言い渡すことが、適正手続(憲法31条)、二重処罰の禁止(憲法39条)、および破棄自判の規定(刑訴法400条但書等)に違反しないか。
規範
控訴裁判所が、検察官の控訴趣意を容れて第一審判決を量刑不当として破棄自判する場合、自ら事実の取調べを行わず、訴訟記録および第一審で取り調べた証拠のみによって、第一審より重い刑を言い渡すことは、憲法31条、39条、および刑訴法400条但書、402条に違反しない。
重要事実
被告人に対し、第一審は懲役1年の判決を言い渡した。これに対し検察官が量刑不当を理由に控訴したところ、控訴審(原審)は自ら事実の取調べを行うことなく、訴訟記録と第一審の証拠のみに基づいて第一審判決を破棄し、被告人を懲役1年6月に処する自判をした。被告人側は、事実の取調べなしに不利益な量刑変更を行うことは憲法および刑訴法に違反すると主張して上告した。
あてはめ
第一に、憲法31条および刑訴法400条但書の関係について、控訴審は事後審的性格を有するため、第一審の証拠資料を精査した結果、その量刑が不当であると判断できる場合には、重ねて事実の取調べをせずとも自判が可能であると解される。第二に、憲法39条の関係について、検察官の上訴に基づく不利益変更は一連の継続した刑事手続内での変動にすぎず、同一犯罪について重ねて刑事責任を問うものではない。第三に、刑訴法402条の不利益変更禁止の原則は被告人が上訴した場合の規定であり、検察官が上訴した本件では適用されない。
結論
控訴審が新たな事実取調べをせずに、一審の記録のみで量刑を重く変更することは適法であるため、本件上告は棄却される。
事件番号: 昭和27(あ)6316 / 裁判年月日: 昭和29年4月13日 / 結論: 棄却
控訴審が、第一審判決の量刑不当の主張を理由ありとしてこれを破棄自判するにあたつては、第一審判決の確定した事実に対し法令の適用を示せば足り控訴審として改めて事実を認定するを要しない。
実務上の射程
検察官控訴における控訴審の自判権の限界を示す射程の長い判例である。答案上は、控訴審の事後審的構造と、量刑判断における事実取調べの要否が問われる場面で活用できる。特に「事実の取調べを行わずとも一審記録の評価のみで破棄自判が可能である」という判断枠組みを維持する文脈で使用する。
事件番号: 昭和31(あ)4239 / 裁判年月日: 昭和33年5月1日 / 結論: 棄却
本件の第一審判決説示のごとく詐欺の意思を除く以外の事実は、すべて認められると認定しているような場合には、被告人を公判廷で公訴事実その他につき質問し、原控訴判決が証拠とした被告人の検察官に対する供述調書の措信すべきや否や等につき取調をなせば、その余の証拠につき直接取調をしなくとも、控訴審が被告人の犯罪事実の存在を確定せず…
事件番号: 昭和41(あ)2665 / 裁判年月日: 昭和42年5月4日 / 結論: 棄却
控訴審が第一審判決の刑を重く変更した場合に、これに対し更に権利として不服申立をする途がないからといつて何ら憲法の規定に違反しないことは、昭和二五年九月二七日大法廷判決(刑集四巻九号一八〇五頁)および昭和二三年三月一〇日大法廷判決(刑集二巻三号一七五頁)の趣旨に徴し明らかである。
事件番号: 昭和30(あ)2372 / 裁判年月日: 昭和30年11月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条1項が保障する「公平な裁判所」とは、偏頗の恐れがなく中立公正な裁判所を指し、量刑不当や審理不尽の主張は当然には上告理由としての憲法違反を構成しない。 第1 事案の概要:被告人が、量刑不当および審理不尽を理由として上告を申し立てた事案。弁護人は、これらの事由が刑訴法405条の上告理由に該当…
事件番号: 昭和61(あ)1418 / 裁判年月日: 昭和62年2月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審において、訴訟記録および第一審の証拠のみに基づき直ちに被告事件の犯罪事実を確定して有罪判決を下すことは、適正な事実認定のあり方に照らして制限されるが、本件ではそのような手続上の瑕疵は認められない。 第1 事案の概要:第一審で無罪判決を受けた被告人に対し、控訴審(原審)が有罪判決を言い渡した。…