一 本件記訴状記載の詐欺の事実と予備的訴因追加請求書掲記の賍物牙保の事実との間に公訴事実の同一性を認めた原判断を相当と認める。 二 (原判断の要旨)詐欺の本意的訴因と賍物牙保の予備的訴因の両者が構成要件、罪名を異にし、前者は甲を被害者とする金員騙取の行為であるのに対し後者は乙会社が遺失物に対して有する追及回復の権利を侵害する行為であつて、両者は被害者及び被害法益を異にし一見恰も公訴事実の同一性を害するもののようであるが、後者において第一ないし第四に分割されている各賍物牙保罪を通じてその基本に存する事実関係が、後者における検察官の罪数的評価にもかかわらず前者の事実関係と全面的に重畳融合していることは、いずれの事実関係も丙が本件小切手を拾得したことに縁由し、被告人から第一審相被告人A、B、Cに順次右小切手の割引換金の依頼承諾がなされ、いずれも右小切手の正当に入手されたものでないことを知りながら敢てなした右一連の依頼承諾に基づき、究極において甲から割引換金を受けたというに帰するのであり、被告人及びA、B、C三名の現実の行為はその内容、日時、場所等同一であつて、この同一の事実関係を本位的訴因は詐欺罪に該るものと評価し、予備的訴因は賍物牙保罪に該るものと評価するに過ぎないのであつて、畢竟両者は基本的事実関係を同じくするものというべく公訴事実の同一性において欠くるところはない。
公訴事実の同一性を認められた事例。―詐欺の本位的訴因と賍物牙保の予備的訴因―
刑法246条,刑法256条2項,刑訴法312条,刑訴法256条
判旨
詐欺の事実と、盗品等媒介(賍物牙保)の事実との間には、公訴事実の同一性が認められる。
問題の所在(論点)
当初の訴因である詐欺の事実と、予備的に追加された盗品等媒介の事実との間に、刑事訴訟法312条1項にいう「公訴事実の同一性」が認められるか。
規範
公訴事実の同一性(刑事訴訟法312条1項)は、訴因変更の許否を判断する基準であり、基本的事実関係が同一であることを要する。具体的には、事象の単一性と、両訴因が非両立の関係にあるかといった観点から、被告人の防禦に及ぼす影響を考慮しつつ判断すべきである。
重要事実
被告人が当初、詐欺罪(刑法246条)により起訴されていたところ、検察官は予備的訴因として、当該事案の客体となった物に関する盗品等媒介罪(旧・賍物牙保罪、刑法256条2項)の事実を追加する請求を行った。
あてはめ
詐欺罪と盗品等媒介罪は、その態様において異なるが、本件においては同一の客体または一連の経過に係る事実を基礎としているものと解される。当初の詐欺の事実と追加された事実は、社会通念上、単一の事象を構成するものと評価でき、両訴因は法律上、非両立の関係にあるといえる。したがって、これら両事実は基本的事実関係において共通性を有する。
結論
詐欺の事実と盗品等媒介の事実の間には公訴事実の同一性が認められ、訴因の追加(予備的訴因の追加)は適法である。
実務上の射程
本判決は、詐欺と盗品関与罪という構成要件を異にする罪間であっても、同一の財物を巡る一連の経過であれば公訴事実の同一性を肯定できることを示した。答案上は、両罪が非両立の関係(詐欺の正犯であれば盗品関与は成立しない等)にあることを指摘し、単一性・非両立性をキーワードに同一性を肯定する論理を展開する際に有用である。
事件番号: 昭和25(あ)1851 / 裁判年月日: 昭和26年2月6日 / 結論: 棄却
論旨は、窃盗と賍物牙保とがその日時、場所において近接し、対象となる賍物も同一である場合には、基本的事実関係は同一と解すべきであるとして旧刑訴法の適用される事件についての公訴事実の同一性に関する当裁判所の判例を挙示し、原判決は、これら判例と相反する判断をしたものであると主張しているもののようである。論旨挙示の判例中昭和二…
事件番号: 昭和26(あ)1943 / 裁判年月日: 昭和27年12月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】窃盗罪と贓物牙保罪又は同寄蔵教唆罪との間には、公訴事実の同一性が認められるため、訴因の変更が可能である。公判開始後であっても、訴因の予備的追加又は変更は許容される。 第1 事案の概要:被告人が窃盗罪で起訴されたが、公判の過程で当該事件が盗品等関与罪(贓物牙保罪または贓物寄蔵教唆罪)に該当する可能性…