第一審判決が起訴にかかる窃盗の事実を認定し、控訴審において、検察官が右認定の事実と同一の被告事件を陳述してその審判を求めたのに対し、控訴審が公訴事実の同一性の範囲内において賍物牙保の事実を認定して有罪の言渡をしても、控訴審が右賍物牙保の点について詳細に取調をしており、検察官は論告に際し附帯控訴をした上、本件を賍物牙保として求刑する旨その意見を陳述し、弁護人もその弁論において窃盗罪の外賍物牙保罪の成否についても言及している場合には、右控訴審の裁判を目して被告人に防禦の機会を与えないでして闇打的な裁判ということはできない。
第一審判決が起訴にかかる窃盗の事実を認定した事件につき控訴審が賍物牙保罪に問擬したことと被告人の防禦の機会
旧刑訴法345条,旧刑訴法349条,旧刑訴法407条
判旨
窃盗の公訴事実に対し、基本的事実関係において同一であるといえる賍物牙保(盗品等媒介)の事実を認定することは、被告人に十分な防御の機会が与えられている限り、公訴事実の同一性の範囲内として許容される。
問題の所在(論点)
窃盗の訴因に対し、訴因変更手続を経ることなく賍物牙保罪を認定することが、公訴事実の同一性の範囲内として許されるか。また、被告人の防御権侵害の有無が問題となる。
規範
裁判所が訴因変更手続を経ずに別罪を認定できるかは、「公訴事実の同一性」(刑事訴訟法312条1項)の範囲内といえるか、及び被告人の防御権を侵害しないかにより判断される。基本的事実関係が同一であり、かつ手続を通じて被告人に十分な防御の機会が与えられている場合には、当該認定は適法となる。
重要事実
被告人は窃盗の事実で公訴提起され、第一審でも窃盗罪で認定された。しかし、控訴審(原審)では賍物牙保(盗品等媒介)の事実が認定された。原審において検察官は附帯控訴の上、賍物牙保として求刑する旨の意見を陳述し、弁護人も窃盗罪のみならず賍物牙保罪の成否について弁論を行っていた。
あてはめ
本件の両事実は、他人所有の同一物件に関する犯罪であり、日時・場所等も密接な関係にあるため、基本的事実関係において同一であり、公訴事実の同一性に欠けるところはない。また、原審において賍物牙保の点について詳細な取調べが行われ、検察官の意見陳述や弁護人の弁論でも同罪の成否が争点化されていた。したがって、被告人には賍物牙保の点についても防御の機会が十分に与えられていたといえる。
結論
窃盗と賍物牙保は公訴事実の同一性の範囲内であり、防御の機会も保障されていたため、原審が賍物牙保罪を認定したことに違法はない。
実務上の射程
公訴事実の同一性が認められる関係(窃盗と盗品関与罪など)において、訴因変更手続の要否を判断する際のリーディングケースである。特に、実質的ディフェンスの観点から、検察官の論告や弁護人の弁論内容によって防御の機会が尽くされたかを判断する手法は、現在の実務・答案作成においても極めて重要である。
事件番号: 昭和37(あ)2463 / 裁判年月日: 昭和39年4月22日 / 結論: 棄却
一 本件記訴状記載の詐欺の事実と予備的訴因追加請求書掲記の賍物牙保の事実との間に公訴事実の同一性を認めた原判断を相当と認める。 二 (原判断の要旨)詐欺の本意的訴因と賍物牙保の予備的訴因の両者が構成要件、罪名を異にし、前者は甲を被害者とする金員騙取の行為であるのに対し後者は乙会社が遺失物に対して有する追及回復の権利を侵…
事件番号: 昭和26(あ)1943 / 裁判年月日: 昭和27年12月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】窃盗罪と贓物牙保罪又は同寄蔵教唆罪との間には、公訴事実の同一性が認められるため、訴因の変更が可能である。公判開始後であっても、訴因の予備的追加又は変更は許容される。 第1 事案の概要:被告人が窃盗罪で起訴されたが、公判の過程で当該事件が盗品等関与罪(贓物牙保罪または贓物寄蔵教唆罪)に該当する可能性…