故意犯である刑法第二〇五条に該当する者が、過失犯である同法第二一〇条、第二一一条に該当する者よりも重く処罰されるのは、故意による傷害致死行為という行為の属性に由来するのであつて、人によつて差別を設けたものではなく、人の地位、身分による区別ではないのであり、何人にも適用される法条なのである。従つて刑法第二〇五条は憲法第一四条に違反しない。
刑法第二〇五条は憲法第一四条に違反するか。
憲法14条,刑法205条,刑法210条,刑法211条
判旨
故意犯である傷害致死罪(刑法205条)を過失犯である過失致死罪等(同210条、211条)より重く処罰することは、行為の属性に基づく区別であって憲法14条の「社会的身分」による差別には当たらず、同条に違反しない。
問題の所在(論点)
故意犯である傷害致死罪が、結果において共通する過失致死罪等よりも重く処罰されることが、憲法14条1項が禁ずる「社会的身分」等による不当な差別に該当し、違憲となるか。
規範
憲法14条1項は法の下の平等を規定するが、立法府が国民の基本的平等の範囲内において、各人の年齢、自然的素質、職業、特別の関係等の諸事情を考慮し、道徳や正義、合目的性の要請に基づき具体的規定を設けることは妨げられない。また、刑罰の差異が犯人の「属性」ではなく、予防的見地等に基づく「行為の性質」に由来する場合には、同条にいう不当な差別的処遇には該当しない。
重要事実
被告人は傷害致死罪(刑法205条)に問われ、有罪判決を受けた。これに対し被告人側は、同条が過失致死罪(210条)や業務上過失致死罪(211条)と比較して著しく重く処罰されるのは、憲法14条の法の下の平等に反し違憲であると主張して上告した。
あてはめ
傷害致死罪(刑法205条)が過失犯より重く処罰されるのは、故意による傷害致死行為という「行為の属性」に由来するものである。これは特定の個人や社会的身分に基づく区別ではなく、いかなる者にも平等に適用される法条である。したがって、故意犯と過失犯の法定刑の差異は、憲法14条が禁止する人種、信条、性別、社会的身分等による差別的処遇には当たらず、正義および合目的性の要請に基づく合理的な区別であるといえる。
結論
刑法205条の規定は憲法14条に違反しない。したがって、被告人側の主張は理由がなく、本件上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
本判決は、法定刑の格差が憲法14条に抵触するか否かの判断基準を示している。具体的には、区別の根拠が「行為の性質(故意・過失)」にある場合は立法裁量の範囲内として合憲とされやすい。もっとも、後に尊属殺人罪違憲判決(最大判昭48.4.4)が示された通り、差別が「身分」に基づき、かつその差別が著しく不合理な場合には違憲となる余地があるため、本判決はその区別の対象が「行為」か「身分」かを切り分ける際の基礎的論理として活用できる。
事件番号: 昭和38(あ)2401 / 裁判年月日: 昭和39年1月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失致死傷罪を定める刑法211条が、業務に従事しない者よりも重い刑罰を規定していることは、憲法14条の禁止する差別には当たらない。一定の業務に従事していることは刑法上の身分ではあるが、同憲法条項にいう「社会的身分」には該当しないためである。 第1 事案の概要:被告人は、業務上の必要な注意を怠…