弁護人の憲法第三九条違反を主張する点は、刑罰法規については憲法第三九条によつて事後法の制定は禁止されているけれども、民事法規については憲法は法律がその高価を遡及せしめることを禁止していないことは、当裁判所判例(昭和二三年(オ)第一三七号同二四年五月一八日大法廷判決、民集三巻六号一九九頁)とするところであつて、所論の宅地建物取引業法の一部を改正する法律(昭和三二年法律第一三一号)所定の営業保証金に関する各条項は、いずれも民事法規であることが明らかであるから、知事が右改正法に規定するところに従い同法所定の月日までに営業保証金の供託を怠つた被告人に対し、同法所定の各条項を適用して、被告人の宅地取引業者の登録を取り消しても、憲法第三九条になんら違反するものではない。それ故所論憲法第三九条違反の主張は理由がない。
宅地建物取引業法の一部を改正する法律(昭和三二年法律第一三一号)所定の営業保証金に関する各条項を適用して宅地建物取引業者の登録を取り消すことと憲法第三九条。
宅地建物取引業法の一部を改正する法律(昭和32年法律131号)附則6項ないし8項,宅地建物取引業法の一部を改正する法律(昭和32年法律131号)附則12条の2,宅地建物取引業法の一部を改正する法律(昭和32年法律131号)附則12条の51項,宅地建物取引業法20条2項,宅地建物取引業法20条3項,宅地建物取引業法20条4項,憲法39条
判旨
憲法39条は刑罰法規の遡及処罰を禁止するが、民事法規の遡及適用までは禁止していない。また、営業保証金の供託義務を既存業者に課し、不履行を理由に登録を取り消すことは、公共の福祉による正当な制限として憲法22条1項に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 民事法規の遡及適用を定める法律に基づき不利益処分を行うことが、憲法39条に違反するか。 2. 既存の営業者に対し新たな義務を課し、不履行を理由に登録を取り消すことが、憲法22条1項の営業の自由に違反するか。
規範
1. 憲法39条は刑罰法規について事後法の制定を禁止しているが、民事法規について法律がその効果を遡及させることを禁止するものではない。 2. 憲法22条1項の保障する営業の自由は、公共の福祉の要請がある限り、必要かつ合理的な範囲で制限を受ける。特に取引の安全確保等の公益目的による規制は、公共の福祉を維持するために必要な規制措置として許容される。
事件番号: 昭和45(あ)1889 / 裁判年月日: 昭和46年6月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】職業選択の自由や営業の自由は公共の福祉のため合理的な理由があれば制限が許され、無免許での宅地建物取引業の禁止は具体的弊害発生の有無を問わず合憲である。また、宅地建物取引業法上の「宅地」とは、現に建物の敷地である土地に限らず、建物の敷地に供する目的で取引される土地を広く指称する。 第1 事案の概要:…
重要事実
宅地建物取引業者であった被告人は、宅地建物取引業法の一部を改正する法律(昭和32年法律131号)により、既存の業者に対しても新たに営業保証金の供託義務が課された。同法は、所定の期日までに供託を怠った場合には登録を取り消すことができる旨を定めていた。被告人は期限までに供託を履行しなかったため、知事から宅地建物取引業者の登録を取り消された。被告人は、当該法改正の遡及適用が憲法39条に、営業の自由の侵害が憲法22条に違反すると主張した。
あてはめ
1. 宅地建物取引業法における営業保証金に関する規定は、取引の安全を目的とする民事法規である。したがって、改正法により遡及的に供託義務を課し、これに抵触したことを理由に登録を取り消したとしても、刑罰法規の遡及処罰を禁ずる憲法39条の問題は生じない。 2. 既存業者を含め営業保証金の供託を義務付ける制度は、宅地建物取引における消費者の利益を保護し、取引の安全を確保するという公共の福祉を維持するために必要な規制である。そのため、不履行者に対して登録取消処分を行うことは、営業の自由に対する正当な制限といえる。
結論
本件各条項およびそれに基づく登録取消処分は、憲法39条および憲法22条1項に違反しない。
実務上の射程
憲法39条の適用範囲を刑罰法規に限定し、民事法規(行政処分を含む)の遡及的適用を肯定する際の有力な根拠となる。また、職業の自由(22条1項)に関する「公共の福祉」による制限の具体例として、取引の安全確保を目的とする既存業者への新義務賦課が合憲とされる一基準を示すものである。
事件番号: 昭和60(あ)93 / 裁判年月日: 昭和63年12月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】宅地建物取引業者が自ら購入者となる取引についても、規制を及ぼさなければ取引の公正が害される等の弊害が生ずるおそれがあるため、宅地建物取引業法による規制は憲法22条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は宅地建物取引業者であったが、自ら宅地又は建物の購入者となる取引を行った。この際、宅地建物取…
事件番号: 昭和36(オ)496 / 裁判年月日: 昭和37年10月24日 / 結論: 棄却
宅地建物取引業法の一部を改正する法律(昭和三二年法律第一三一号)附則第七項および第八項とが既存の宅地建物取引業者に対し新らたに営業保証金の供託義務を課していることは、憲法第二二条、第一三条に違反しない。
事件番号: 昭和33(あ)731 / 裁判年月日: 昭和36年3月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律の廃止に際し、附則で施行前の行為につき従前の例により罰則を適用すると規定することは、法の文理上明らかであり憲法39条に違反しない。また、同条にいう「既に無罪とされた行為」とは「既に無罪の裁判のあった行為」を指す。 第1 事案の概要:被告人は、旧法である「貸金業等の取締に関する法律」に違反する行…