一 原判示の飲酒酩酊による無謀操縦の罪と業務上過失致死罪とは刑法第四五条前段の併合罪の関係にあると判示した原判決の結論は相当である(昭和三五年(あ)第二一二〇号同三八年一一月一二日第三小法廷判決参照)。 二 (原判示の要旨)所論は要するに論旨指摘の仙台及び札幌各高裁の二つの判例を挙げて飲酒酩酊して自動車の無謀操縦をした本件所為と本件業務上過失致死の所為とを併合罪として被告人を処断した第一審判決の法令適用の誤りを主張するのであるが飲酒酩酊して自動車の無謀操縦をした所為と業務上過失致死の所為が一個の行為で二個の罪名に触れる場合に該当するとする論旨指摘の各判例は、それら各犯行の罪質の相異に鑑み、にわかに賛同し得ないところであつて、寧ろ本件飲酒酩酊して自動車の無謀操縦をした所為と業務上過失致死の所為とは刑法第四五条前段の併合罪の関係にあるものと解するのが相当である。
道路交通取締法違反(飲酒酩酊による無謀操縦)の罪と業務上過失致死罪との関係。
道路交通取締法7条1項,道路交通取締法2項3号,道路交通取締法28条1号,刑法211条前段,刑法45条
判旨
飲酒酩酊による無謀操縦の罪(旧航空法等)と業務上過失致死罪との罪数関係は、刑法45条前段の併合罪の関係にある。
問題の所在(論点)
飲酒酩酊による無謀操縦の罪と業務上過失致死罪が成立する場合、その罪数関係は刑法54条1項前段の観念的競合となるか、それとも刑法45条前段の併合罪となるか。
規範
特定の作為・不作為が複数の犯罪構成要件に該当する場合であっても、それらの行為が時間的・空間的に密接しているのみならず、それぞれの罪の保護法益や構成要件の性質が別個独立したものであるならば、観念的競合(刑法54条1項前段)ではなく、併合罪(刑法45条前段)として扱うべきである。
重要事実
被告人は、飲酒酩酊により正常な操縦ができないおそれがある状態で航空機(または船舶等、判決文からは詳細な機材は不明)を操縦した(無謀操縦の罪)。その結果、必要な注意義務を怠り、過失によって人を死亡させるに至った(業務上過失致死罪)。原審はこれらの罪を併合罪として処理したが、弁護人はこれを法令違反であるとして上告した。
事件番号: 昭和47(あ)1896 / 裁判年月日: 昭和49年5月29日 / 結論: 棄却
一 刑法五四条一項前段にいう一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいう。 二 酒に酔つた状態で自動車を運転中に過失により人身事故を発生させた場合における道路交通法(昭和四五年法律第八六号による改正前のもの)六五条、一一七条の…
あてはめ
飲酒酩酊による無謀操縦は、交通の安全を害する危険性を生じさせる時点で既遂に達する危険犯的な性質を有する。これに対し、業務上過失致死罪は、具体的な過失行為によって人の死という結果を発生させることで成立する実害犯である。両罪は、一方の行為が当然に他方の行為を包含する関係にあるとはいえず、また、飲酒操縦という状態と致死の原因となった具体的な過失行為は、法律上別個の評価に値する行為といえる。したがって、これらを1個の行為と解することは相当ではない。
結論
飲酒酩酊による無謀操縦の罪と業務上過失致死罪は、刑法45条前段の併合罪の関係にある。
実務上の射程
交通犯罪において、一定の状態を維持する罪(飲酒運転等)と、その過程で発生した過失致死傷罪の罪数関係を検討する際の指針となる。もっとも、道路交通法違反(酒気帯び・酒酔い運転)と過失運転致死傷罪については、現在の実務・判例(最決昭49.5.29等)では観念的競合とされており、本判決の射程は航空機等の特殊な事案や、当時の構成要件解釈に基づくものである点に留意が必要である。
事件番号: 昭和35(あ)2120 / 裁判年月日: 昭和38年11月12日 / 結論: 棄却
自動車運転を業とする被告人が午後七時三〇分頃から清酒三合位及びウイスキー一合位を飲み、少しく酒に酔つて午後八時四五分頃、酒気を帯び自動車を正常に運転できない虞があり、更に酔が廻つて前方注視などが困難となり、正常運転ができなくなる状態であるのに、予め休息して酔の醒めるのを待つことなく、あえて自動三輪車を運転しはじめ午後九…
事件番号: 昭和46(あ)1938 / 裁判年月日: 昭和47年6月9日 / 結論: 棄却
一 弁護人の上告趣意のうち判例違反をいう点は、第一審判決が本件業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪とを観念的競合として法令を適用したのに対し、両罪を併合罪と解すべきである旨を主張するに帰し、被告人に不利益な主張であるから不適法である。 二 (参考)本件は、犯罪事実として、業務上過失傷害罪および酒酔い運転の罪のほかに、被害者…
事件番号: 昭和30(あ)2676 / 裁判年月日: 昭和33年3月17日 / 結論: 棄却
一 本件における道路交通取締法違反(無謀操縦)の事実と業務上過失致死の事実とは、公訴事実としては別個の事実であつて、公訴事実の同一性を認むべきではない。 二 本件における道路交通取締法違反(無謀操縦)の罪と業務上過失致死罪とは別個独立の犯罪であつて、右両者の間には牽連関係ないし一所為数法の関係は存しない。
事件番号: 昭和44(あ)695 / 裁判年月日: 昭和44年7月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】禁錮刑と懲役刑の併合罪において、刑法47条本文により加重した結果の刑期が、各罪の法定刑の長期を合算した刑期を超える場合には、同条但書を適用してその合算した刑期以下で処断すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、業務上過失致死傷罪(改正前刑法211条前段)と酒酔い運転罪(道路交通法117条の2第1…