一 弁護人の上告趣意のうち判例違反をいう点は、第一審判決が本件業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪とを観念的競合として法令を適用したのに対し、両罪を併合罪と解すべきである旨を主張するに帰し、被告人に不利益な主張であるから不適法である。 二 (参考)本件は、犯罪事実として、業務上過失傷害罪および酒酔い運転の罪のほかに、被害者救護義務違反罪および事故報告義務違反罪がある事案である。
弁護人の上告趣意における判例違反の論旨が被告人に不利益な主張として不適法とされた事例
刑訴法402条,刑訴法405条2号
判旨
業務上過失致死傷罪と道路交通法上の酒酔い運転の罪は、併合罪(刑法45条前段)の関係にあり、観念的競合(刑法54条1項前段)とはならない。
問題の所在(論点)
酒酔い運転の罪と業務上過失致死傷罪は、刑法54条1項前段の「一個の行為」にあたるか、それとも刑法45条前段の併合罪にあたるか。
規範
二つの罪が観念的競合となるのは、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合をいうが、業務上過失致死傷罪と酒酔い運転の罪は、運転という行為の共通性はあるものの、保護法益および構成要件の性質を異にするため、併合罪として処理すべきである。
重要事実
被告人は、酒に酔った状態で自動車を運転し、業務上の注意義務を怠って他人に傷害を負わせる事故を起こした。第一審判決は、業務上過失傷害罪と道路交通法違反(酒酔い運転)の罪について、両者が一個の運転行為に基づくものであるとして観念的競合を適用した。これに対し、被告人側は上告審において、第一審の法令適用を不服として争ったが、その実質は併合罪とすべき(被告人に不利益な変更)という主張を含んでいた。
事件番号: 昭和48(あ)2132 / 裁判年月日: 昭和49年1月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪は、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合に該当し、刑法54条1項前段により観念的競合の関係にある。被告人に不利益な変更を求める上告趣意は不適法として退けられる。 第1 事案の概要:被告人は酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転走行中に注意義務を怠っ…
あてはめ
酒酔い運転は、酒気を帯びて正常な運転ができないおそれがある状態で運転すること自体を罰するものであり、公共の交通上の危険を防止することに主眼がある。これに対し、業務上過失致死傷罪は、過失により人を死傷させた結果を罰するものである。両者は運転という点では共通するが、酒酔い運転は運転の開始から終了まで継続する罪であるのに対し、業務上過失致死傷は特定の時点における過失を問題とする。したがって、これらは別個の罪数として評価されるべきである。
結論
業務上過失致死傷罪と酒酔い運転の罪は併合罪の関係にある。したがって、観念的競合とした第一審の判断は(結論において被告人に有利であっても)法令解釈としては正しくない。
実務上の射程
本判決は、交通事故における罪数関係の基本を示すものである。現在の実務では、酒酔い運転(または酒気帯び運転)と自動車運転死傷処罰法の過失運転致死傷罪は併合罪として扱われる。答案上、一つの運転行為の中で複数の違反が生じた場合でも、状態的な法規違反と結果犯は別個の行為として併合罪と解する指針となる。
事件番号: 昭和48(あ)1969 / 裁判年月日: 昭和50年2月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と、その運転中に行われた業務上過失致死傷の罪とは、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合として、観念的競合(刑法54条1項前段)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転継続中に注意義務を怠って人身事故を起こし、他者に傷害を負わ…
事件番号: 昭和35(あ)2120 / 裁判年月日: 昭和38年11月12日 / 結論: 棄却
自動車運転を業とする被告人が午後七時三〇分頃から清酒三合位及びウイスキー一合位を飲み、少しく酒に酔つて午後八時四五分頃、酒気を帯び自動車を正常に運転できない虞があり、更に酔が廻つて前方注視などが困難となり、正常運転ができなくなる状態であるのに、予め休息して酔の醒めるのを待つことなく、あえて自動三輪車を運転しはじめ午後九…
事件番号: 昭和45(あ)2554 / 裁判年月日: 昭和46年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と業務上過失傷害罪との罪数関係につき、前者の実行行為たる自動車の運転行為自体が後者の注意義務違反(過失)の内容をなす場合には、刑法54条1項前段により観念的競合と解すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、飲酒により正常な運転ができないおそれがある状態で普通乗用自動車を運転した(酒…
事件番号: 昭和47(あ)1896 / 裁判年月日: 昭和49年5月29日 / 結論: 棄却
一 刑法五四条一項前段にいう一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいう。 二 酒に酔つた状態で自動車を運転中に過失により人身事故を発生させた場合における道路交通法(昭和四五年法律第八六号による改正前のもの)六五条、一一七条の…