判旨
酒酔い運転の罪と業務上過失傷害罪との罪数関係につき、前者の実行行為たる自動車の運転行為自体が後者の注意義務違反(過失)の内容をなす場合には、刑法54条1項前段により観念的競合と解すべきである。
問題の所在(論点)
酒酔い運転の罪(道路交通法違反)と業務上過失傷害罪(刑法旧211条)について、各罪が併合罪(刑法45条)となるか、あるいは観念的競合(刑法54条1項前段)となるか。
規範
刑法54条1項前段の「一個の行為」とは、自然的観察において1つの行為と評価されるものだけでなく、法的評価において数個の罪名が同一の行為を共通の実行要素としている場合を含む。酒酔い運転の罪と業務上過失傷害罪の関係においては、酒酔い状態での運転という実行行為自体が、過失死傷罪における注意義務違反(過失)の内容を構成している場合には、両罪は観念的競合の関係に立つ。
重要事実
被告人は、飲酒により正常な運転ができないおそれがある状態で普通乗用自動車を運転した(酒酔い運転)。その際、酒酔いのため前方注視が困難となり、確実な運転を期しがたい状態であったにもかかわらず、直ちに運転を中止すべき義務を怠り、漫然と時速約60キロメートルで運転を継続した過失(注意義務違反)により、先行車に激突して被害者2名に傷害を負わせた(業務上過失傷害)。
あてはめ
本件における業務上過失傷害罪の過失の内容は、「酒の酔いのため前方注視が困難」であり「確実な運転を期しがたい状態」であったにもかかわらず「漫然運転を継続した」点にある。この過失の内容をなす運転行為は、酒酔い運転の罪の実行行為としての運転行為と全く重なるものである。したがって、酒酔い運転の罪の実行行為たる運転行為自体が、業務上過失傷害罪における共通の注意義務違反すなわち過失の内容をなすと評価できる。このように一つの運転行為が両罪の構成要件要素として共通している以上、全体として一個の行為が数個の罪名に触れる場合に該当するといえる。
結論
被告人の酒酔い運転の罪と業務上過失傷害罪は観念的競合となる。原審および第一審がこれを併合罪としたのは法令の適用を誤ったものであるが、救護義務違反(ひき逃げ)との併合罪関係や処断刑への影響を考慮すると、判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまではいえないため、上告は棄却される。
事件番号: 昭和48(あ)2132 / 裁判年月日: 昭和49年1月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪は、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合に該当し、刑法54条1項前段により観念的競合の関係にある。被告人に不利益な変更を求める上告趣意は不適法として退けられる。 第1 事案の概要:被告人は酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転走行中に注意義務を怠っ…
実務上の射程
道路交通法違反と過失運転致死傷罪等の罪数関係を検討する際の基本となる判断枠組み。過失の内容が「酒酔い」や「無免許」そのものに直結している場合は、運転行為の共通性に着目して観念的競合を認める。一方、判例は、運転開始後の独立した前方不注視などが過失とされる場合には、なお併合罪とする余地も残している点に注意を要する。
事件番号: 昭和50(あ)949 / 裁判年月日: 昭和50年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と業務上過失致死傷罪は、前者が後者の実行行為を包含する関係にあるため、刑法54条1項前段の観念的競合となる。一方で、無免許運転の罪とこれらの罪は、別個の独立した行為と解されるため、併合罪(同法45条前段)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔…
事件番号: 昭和43(あ)917 / 裁判年月日: 昭和45年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失致死傷罪と道路交通法の酒気帯び運転の罪とは、1つの運転行為に付随するものであっても、併合罪(刑法45条)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人が、酒気を帯びた状態で車両を運転し、その走行中に業務上の注意義務を怠ったことにより、人を負傷させる事故(業務上過失傷害)を起こした事案。弁護人は…
事件番号: 昭和48(あ)1969 / 裁判年月日: 昭和50年2月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と、その運転中に行われた業務上過失致死傷の罪とは、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合として、観念的競合(刑法54条1項前段)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転継続中に注意義務を怠って人身事故を起こし、他者に傷害を負わ…
事件番号: 昭和46(あ)1938 / 裁判年月日: 昭和47年6月9日 / 結論: 棄却
一 弁護人の上告趣意のうち判例違反をいう点は、第一審判決が本件業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪とを観念的競合として法令を適用したのに対し、両罪を併合罪と解すべきである旨を主張するに帰し、被告人に不利益な主張であるから不適法である。 二 (参考)本件は、犯罪事実として、業務上過失傷害罪および酒酔い運転の罪のほかに、被害者…