判旨
業務上過失致死傷罪と道路交通法の酒気帯び運転の罪とは、1つの運転行為に付随するものであっても、併合罪(刑法45条)の関係に立つ。
問題の所在(論点)
酒気帯び運転の罪(道路交通法)と、業務上過失傷害罪(刑法旧211条)が成立する場合、両罪は観念的競合(刑法54条1項前段)となるか、それとも併合罪(刑法45条)となるか。
規範
刑法45条前段の併合罪と、同法54条1項前段の観念的競合の区別は、1つの行為が複数の罪名に触れるか否かによって判断される。酒気帯び状態で運転し、過失により人を死傷させた場合、運転行為自体は共通するものの、保護法益および構成要件の性質に鑑み、各罪は独立した別個の行為と解されるべきである。
重要事実
被告人が、酒気を帯びた状態で車両を運転し、その走行中に業務上の注意義務を怠ったことにより、人を負傷させる事故(業務上過失傷害)を起こした事案。弁護人は、これら2罪が憲法39条等に鑑み一罪として扱われるべきであると主張して上告した。
あてはめ
判決文には詳細なあてはめのロジックは明記されていないが、原判決が「業務上過失傷害罪と酒気帯び運転の罪とを併合罪の関係にたつとしている」ことを「本件事実関係のもとでは正当」と肯定している。これは、酒気を帯びて運転を開始・継続する行為と、特定の注意義務に違反して事故を起こす行為とを、法的に別個の評価対象として捉える判断に基づくものといえる。
結論
業務上過失傷害罪と酒気帯び運転の罪は併合罪の関係に立つ。したがって、本件上告を棄却する。
実務上の射程
交通犯罪における罪数判断の基本判例である。現在は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷処罰法)」が適用されるが、酒気帯び運転との罪数関係については、本判例の考え方が維持され併合罪として処理される。答案上は、両罪が保護法益を異にすること(公共の安全対個人の身体)を理由に併合罪と指摘する際に引用すべきである。
事件番号: 昭和45(あ)2554 / 裁判年月日: 昭和46年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と業務上過失傷害罪との罪数関係につき、前者の実行行為たる自動車の運転行為自体が後者の注意義務違反(過失)の内容をなす場合には、刑法54条1項前段により観念的競合と解すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、飲酒により正常な運転ができないおそれがある状態で普通乗用自動車を運転した(酒…
事件番号: 昭和40(あ)2793 / 裁判年月日: 昭和41年7月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項前段の救護義務違反と、同項後段の報告義務違反は、併合罪(刑法45条)の関係に立つ。また、酒酔い運転の罪と業務上過失傷害の罪も、併合罪として処断されるのが相当である。 第1 事案の概要:被告人は酒酔い状態で車両を運転し、業務上の過失により他人に傷害を負わせた(業務上過失傷害)。そ…
事件番号: 昭和48(あ)2132 / 裁判年月日: 昭和49年1月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪は、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合に該当し、刑法54条1項前段により観念的競合の関係にある。被告人に不利益な変更を求める上告趣意は不適法として退けられる。 第1 事案の概要:被告人は酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転走行中に注意義務を怠っ…
事件番号: 昭和46(あ)1938 / 裁判年月日: 昭和47年6月9日 / 結論: 棄却
一 弁護人の上告趣意のうち判例違反をいう点は、第一審判決が本件業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪とを観念的競合として法令を適用したのに対し、両罪を併合罪と解すべきである旨を主張するに帰し、被告人に不利益な主張であるから不適法である。 二 (参考)本件は、犯罪事実として、業務上過失傷害罪および酒酔い運転の罪のほかに、被害者…
事件番号: 昭和47(あ)1896 / 裁判年月日: 昭和49年5月29日 / 結論: 棄却
一 刑法五四条一項前段にいう一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいう。 二 酒に酔つた状態で自動車を運転中に過失により人身事故を発生させた場合における道路交通法(昭和四五年法律第八六号による改正前のもの)六五条、一一七条の…