判旨
道路交通法72条1項前段の救護義務違反と、同項後段の報告義務違反は、併合罪(刑法45条)の関係に立つ。また、酒酔い運転の罪と業務上過失傷害の罪も、併合罪として処断されるのが相当である。
問題の所在(論点)
道路交通法72条1項前段の救護義務違反と、同項後段の報告義務違反は、観念的競合(刑法54条1項前段)か、それとも併合罪(同45条)か。また、酒酔い運転の罪と業務上過失傷害の罪の罪数関係も問題となる。
規範
交通事故の際、運転者に課される救護義務(道路交通法72条1項前段)と報告義務(同項後段)は、それぞれ異なる法的利益を保護し、異なる作為を命ずるものである。したがって、これらに違反する不作為の罪は、併合罪の関係にある。また、酒酔い運転の罪と、その運転過程で惹起された業務上過失傷害の罪についても、同様に併合罪として処理すべきである。
重要事実
被告人は酒酔い状態で車両を運転し、業務上の過失により他人に傷害を負わせた(業務上過失傷害)。その際、直ちに車両の運転を停止して負傷者を救護する義務(救護義務)を怠り、かつ警察官に速やかに報告する義務(報告義務)を履行しなかった。原審は、救護義務違反と報告義務違反を併合罪とし、さらに酒酔い運転と業務上過失傷害も併合罪として処断したため、弁護側がこれを不服として上告した。
あてはめ
道路交通法72条1項前段と後段は、交通事故時における異なる作為義務を規定しており、一方の不履行が当然に他方の不履行を含む関係にはない。また、酒酔い運転の状態で行われた過失運転致死傷についても、酒酔い運転罪という危険犯と、過失による結果犯とは別個の構成要件を充足し、併合罪として処断することが法の趣旨に合致する。確定した事実関係の下では、これらの罪を併合罪とした判断は正当である。
結論
道路交通法72条1項前段違反の罪と後段違反の罪、および酒酔い運転の罪と業務上過失傷害の罪は、いずれも併合罪として処断される。
事件番号: 昭和43(あ)917 / 裁判年月日: 昭和45年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失致死傷罪と道路交通法の酒気帯び運転の罪とは、1つの運転行為に付随するものであっても、併合罪(刑法45条)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人が、酒気を帯びた状態で車両を運転し、その走行中に業務上の注意義務を怠ったことにより、人を負傷させる事故(業務上過失傷害)を起こした事案。弁護人は…
実務上の射程
交通犯罪における罪数判断の基本を示す判例である。答案上では、救護義務と報告義務が同一の事故を契機とする場合でも、法的性質の差異から併合罪として扱う根拠となる。実務上も、これらの罪は原則として併合罪(併合罪加重)として処理される。
事件番号: 昭和41(あ)659 / 裁判年月日: 昭和41年9月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項前段の救護義務違反の罪と、同項後段の報告義務違反の罪は、互いに併合罪の関係に立つ。 第1 事案の概要:上告人は、交通事故を起こした際、道路交通法72条1項に規定される救護措置等の義務を怠るとともに、警察官への報告義務も果たさなかったとして起訴された。弁護人は、これら両義務違反の…
事件番号: 昭和48(あ)2132 / 裁判年月日: 昭和49年1月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪は、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合に該当し、刑法54条1項前段により観念的競合の関係にある。被告人に不利益な変更を求める上告趣意は不適法として退けられる。 第1 事案の概要:被告人は酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転走行中に注意義務を怠っ…
事件番号: 昭和50(あ)949 / 裁判年月日: 昭和50年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と業務上過失致死傷罪は、前者が後者の実行行為を包含する関係にあるため、刑法54条1項前段の観念的競合となる。一方で、無免許運転の罪とこれらの罪は、別個の独立した行為と解されるため、併合罪(同法45条前段)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔…
事件番号: 昭和40(あ)285 / 裁判年月日: 昭和40年10月12日 / 結論: 棄却
下級裁判所が最高裁判所の破棄理由とした法律上の判断に従つてした判決に対しては、その法律上の判断を不服として上告することは許されないというべきである。(昭和三九年一一月二四日第三小法廷決定、刑集一八巻九号六三九頁参照)