下級裁判所が最高裁判所の破棄理由とした法律上の判断に従つてした判決に対しては、その法律上の判断を不服として上告することは許されないというべきである。(昭和三九年一一月二四日第三小法廷決定、刑集一八巻九号六三九頁参照)
下級審がその事件について上告審の破棄理由とした法律上の判断に従つてした判決に対する上告理由の適否。
刑訴法405条,裁判所法4条
判旨
交通事故(いわゆるひき逃げ)の際、道路交通法72条1項前段の救護義務違反と、同項後段の報告義務違反は併合罪の関係に立つ。また、最高裁判所が破棄の理由とした法律上の判断に下級審が従った場合、その判断を不服として再上告することは許されない。
問題の所在(論点)
1. 交通事故(ひき逃げ)において、道路交通法72条1項前段の救護義務違反と後段の報告義務違反はどのような罪数関係に立つか。2. 最高裁判所の破棄理由となった法律上の判断に従ってなされた差戻後の判決に対し、当該法律判断を不服として上告することが許されるか。
規範
道路交通法72条1項に規定される交通事故発生時の救護義務(前段)と報告義務(後段)は、それぞれ独立した義務であり、両者に違反した場合は併合罪となる。また、最高裁判所の破棄差戻しを受けた下級審が、その破棄理由となった法律上の判断に従って下した判決に対しては、当該判断を不服として上告することはできない。
重要事実
被告人はいわゆる「ひき逃げ」を起こし、負傷者の救護を行わず(前段違反)、かつ警察官への報告も行わなかった(後段違反)。第一審判決は報告義務違反の点につき無罪としたが、控訴審にて最高裁判所第一小法廷が、救護義務違反と報告義務違反は併合罪となる旨の法律上の判断を示して破棄差戻しを命じた。差戻後の原審は、この最高裁の見解に従い報告義務違反の成立を認め、両者を併合罪として処断した。これに対し、被告人側は報告義務違反は成立しないとして上告した。
事件番号: 昭和38(あ)10 / 裁判年月日: 昭和39年9月24日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】交通事故(いわゆる「ひき逃げ」)において、車両等の運転者が負う道路交通法72条1項前段の救護義務違反の罪と、同項後段の報告義務違反の罪は、併合罪の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人が車両等の運転中に交通事故を起こしたが、負傷者を救護する等の措置を講じず、かつ警察官等への報告も行わずに現場から立…
あてはめ
1. 交通事故における救護義務と報告義務は、被害者の保護と道路交通の安全確保という異なる法益に資するものであり、ひき逃げの態様において両義務を怠った場合、救護義務違反のみならず報告義務違反も成立し、これらは併合罪の関係にあると解される。2. 本件において、差戻後の原審は最高裁判所第一小法廷が示した「両者は併合罪となる」という法律上の判断を忠実に履行している。裁判所法4条等の趣旨に照らし、上級審の判断の拘束力を尊重すべきであり、下級審がこれに従った以上、同一の法律的論点を不服として上告することは刑訴法405条の上告理由に当たらない。
結論
救護義務違反と報告義務違反は併合罪となる。また、最高裁の破棄理由に従った原判決の法律判断を不服とする本件上告は認められない。
実務上の射程
道路交通法違反の罪数関係に関するリーディングケースである。答案上では、救護義務と報告義務の各性質を論じた上で、併合罪(刑法45条前段)として処理する根拠となる。また、訴訟法上は破棄差戻判決の拘束力に関する論点(裁判所法4条)として引用可能である。
事件番号: 昭和37(あ)502 / 裁判年月日: 昭和38年4月17日 / 結論: 破棄自判
車両等の運転者が、いわゆる「ひき逃げ」をした場合には、道路交通法第七二条第一項前段違反と同項後段違反の各罪が成立し、両者は併合罪の関係に立つものと解すべきである。
事件番号: 昭和38(あ)1049 / 裁判年月日: 昭和38年12月6日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項前段の救護等義務と後段の報告義務は、各々別個独立の義務であるため、いわゆる「ひき逃げ」の際には両義務違反の罪が成立し、併合罪の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は普通貨物自動車を運転中、過失によりAおよびBを負傷させる交通事故を起こした。被告人は、負傷者の救護等の措置を講じ…
事件番号: 昭和41(あ)659 / 裁判年月日: 昭和41年9月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項前段の救護義務違反の罪と、同項後段の報告義務違反の罪は、互いに併合罪の関係に立つ。 第1 事案の概要:上告人は、交通事故を起こした際、道路交通法72条1項に規定される救護措置等の義務を怠るとともに、警察官への報告義務も果たさなかったとして起訴された。弁護人は、これら両義務違反の…
事件番号: 昭和37(あ)1918 / 裁判年月日: 昭和38年7月19日 / 結論: 破棄自判
車両等の運転者等が、交通事故を起しながらいわゆる「ひき逃げ」をした場合には、道路交通法第七二条第一項前段の救護等の義務違反の罪と同項後段の報告義務違反の罪とが成立し、両者は併合罪の関係に立つものと解すべきことは、当裁判所大法廷判決(昭和三七年(あ)第五〇二号、同三八年四月一七日宣告)の示すところである。してみると、これ…