車両等の運転者等が、交通事故を起しながらいわゆる「ひき逃げ」をした場合には、道路交通法第七二条第一項前段の救護等の義務違反の罪と同項後段の報告義務違反の罪とが成立し、両者は併合罪の関係に立つものと解すべきことは、当裁判所大法廷判決(昭和三七年(あ)第五〇二号、同三八年四月一七日宣告)の示すところである。してみると、これと同趣旨に出でた論旨引用の各高等裁判所の判例は正当として支持さるべきで、論旨は理由があり(原判決言渡当時においては、右大法廷判決はまだなされていなかつたのであるから、本件の場合が刑訴法第四〇五条第三号後段に当ることを妨げるものではない。)、原判決は刑訴法第四〇五条第三号、第四一〇条第一項本文により破棄を免れない。
原判決が、いわゆる「ひき逃げ」事件に関し、既になされた高等裁判所の判例および原判決後になされた右判例と同趣旨の最高裁判所の判例と相反する判断をしている場合と破棄理由。
道路交通法72条,道路交通法117条,道路交通法119条10号,刑法211条前段,刑法45条,刑訴法405条3号,刑訴法410条1項
判旨
交通事故の運転者が救護義務及び報告義務を履行せずに現場を立ち去った場合、道路交通法72条1項前段の救護等義務違反罪と、同項後段の報告義務違反罪が成立し、両者は併合罪の関係に立つ。
問題の所在(論点)
交通事故の運転者がいわゆる「ひき逃げ」をした場合において、道路交通法72条1項前段の救護義務違反罪と、同項後段の報告義務違反罪はどのような罪数関係に立つか。
規範
車両等の運転者等が交通事故を起こした場合において、負傷者の救護等の義務を怠ると同時に警察官等への報告義務をも怠ったときは、道路交通法72条1項前段の義務違反と後段の義務違反がそれぞれ独立して成立し、これらは刑法45条前段により併合罪として処断される。
重要事実
事件番号: 昭和37(あ)502 / 裁判年月日: 昭和38年4月17日 / 結論: 破棄自判
車両等の運転者が、いわゆる「ひき逃げ」をした場合には、道路交通法第七二条第一項前段違反と同項後段違反の各罪が成立し、両者は併合罪の関係に立つものと解すべきである。
被告人は車両を運転中に交通事故(業務上過失致死)を起こしたが、直ちに負傷者を救護する等の措置を講じず、かつ速やかに警察官へ事故の報告を行わないまま現場を立ち去った(いわゆる「ひき逃げ」の態様)。
あてはめ
道路交通法72条1項は、前段で負傷者の救護及び道路上の危険防止措置を、後段で警察官への報告をそれぞれ義務付けている。ひき逃げ行為は、これら性質の異なる二つの義務を共に放棄するものであるため、前段違反の罪と後段違反の罪が各別に成立する。本件においても、救護等の義務違反と報告義務違反の双方が認められ、さらにこれらと業務上過失致死罪は別個の行為によるものであるため、全てを併合罪として処理すべきである。
結論
救護義務違反罪と報告義務違反罪が成立し、これらは業務上過失致死罪も含め併合罪となる。原判決を破棄し、被告人を禁錮二年に処する。
実務上の射程
道路交通法違反の罪数関係に関するリーディングケースである。答案上は、救護義務と報告義務が別個の法益・目的(前者は人身安全・交通秩序、後者は事故の把握・処理)を有する点を踏まえ、一連の不作為であっても併合罪とすべき根拠として用いる。
事件番号: 昭和38(あ)10 / 裁判年月日: 昭和39年9月24日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】交通事故(いわゆる「ひき逃げ」)において、車両等の運転者が負う道路交通法72条1項前段の救護義務違反の罪と、同項後段の報告義務違反の罪は、併合罪の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人が車両等の運転中に交通事故を起こしたが、負傷者を救護する等の措置を講じず、かつ警察官等への報告も行わずに現場から立…
事件番号: 昭和38(あ)1049 / 裁判年月日: 昭和38年12月6日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項前段の救護等義務と後段の報告義務は、各々別個独立の義務であるため、いわゆる「ひき逃げ」の際には両義務違反の罪が成立し、併合罪の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は普通貨物自動車を運転中、過失によりAおよびBを負傷させる交通事故を起こした。被告人は、負傷者の救護等の措置を講じ…
事件番号: 昭和40(あ)285 / 裁判年月日: 昭和40年10月12日 / 結論: 棄却
下級裁判所が最高裁判所の破棄理由とした法律上の判断に従つてした判決に対しては、その法律上の判断を不服として上告することは許されないというべきである。(昭和三九年一一月二四日第三小法廷決定、刑集一八巻九号六三九頁参照)
事件番号: 昭和37(あ)986 / 裁判年月日: 昭和38年12月26日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】交通事故を起こして逃走するいわゆる「ひき逃げ」の場合、道路交通法72条1項前段の救護義務違反の罪と、同条項後段の報告義務違反の罪がともに成立し、これらは併合罪の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、無免許で車両を運転中に重過失致死にあたる交通事故を起こした。被告人は、負傷者の救護等の措置を講ず…