車両等の運転者が、いわゆる「ひき逃げ」をした場合には、道路交通法第七二条第一項前段違反と同項後段違反の各罪が成立し、両者は併合罪の関係に立つものと解すべきである。
道路交通法第七二条第一項前段とその後段との関係。
道路交通法72条1項,道路交通法117条,道路交通法119条1項10号,刑法45条
判旨
道路交通法72条1項に規定される救護等義務(前段)と報告義務(後段)は、各々別個独立の義務であり、救護等義務を怠った場合であっても当然に報告義務違反が成立し、両罪は併合罪の関係に立つ。
問題の所在(論点)
交通事故が発生した場合において、道路交通法72条1項前段の救護等義務と、同条項後段の警察官への報告義務は、互いに独立した義務として並立し、その不履行は併合罪となるか。あるいは報告義務は救護等義務に吸収・補完される関係にあるか。
規範
道路交通法72条1項の前段(救護等義務)は事故発生時の応急処置を命じるものであり、後段(報告義務)は警察官による適切な処置を可能にするためのものである。両者は究極の目的を同じくするが、義務の内容を異にする各別個独立の義務である。したがって、一方の義務を履行しなかった場合でも他方の義務を免れることはなく、各義務違反に対する罰則も別個に規定されているため、両罪は併合罪となる。
重要事実
被告人は自動車を運転中に交通事故を起こしたが、負傷者の救護等の措置を講じず(いわゆるひき逃げ)、かつ警察官に対して事故発生の日時、場所等の法令に定められた事項を報告しなかった。原審は、報告義務は救護等義務に対して補充的意義を有するに過ぎないとして、救護等義務違反の罪のみを認め、報告義務違反については無罪としたため、検察官が上告した。
事件番号: 昭和37(あ)1918 / 裁判年月日: 昭和38年7月19日 / 結論: 破棄自判
車両等の運転者等が、交通事故を起しながらいわゆる「ひき逃げ」をした場合には、道路交通法第七二条第一項前段の救護等の義務違反の罪と同項後段の報告義務違反の罪とが成立し、両者は併合罪の関係に立つものと解すべきことは、当裁判所大法廷判決(昭和三七年(あ)第五〇二号、同三八年四月一七日宣告)の示すところである。してみると、これ…
あてはめ
道路交通法72条1項後段は「この場合において」として前段の交通事故発生を前提としているが、これは警察官による万全の救護と交通秩序の回復を即時に行うための独立した義務を課したものである。本件被告人は事故発生時に救護措置を怠っただけでなく、警察官への報告も行っておらず、義務の内容が異なる以上、一方の不履行が他方の不履行を包含することはない。したがって、救護等義務違反(同法117条)と報告義務違反(同法119条1項10号)はそれぞれ独立して成立する。
結論
被告人には救護等義務違反の罪および報告義務違反の罪の双方が成立し、これらは併合罪の関係に立つ。報告義務違反を無罪とした原判決は破棄される。
実務上の射程
交通事故における運転者の義務が並立することを明示した重要判例である。答案上は、数個の義務が重畳的に課されている場面で、各義務の趣旨・内容を比較し、別個の法的法益や目的があることを論じる際の枠組みとして活用できる。特に交通犯罪の罪数論において不可欠の論理である。
事件番号: 昭和38(あ)10 / 裁判年月日: 昭和39年9月24日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】交通事故(いわゆる「ひき逃げ」)において、車両等の運転者が負う道路交通法72条1項前段の救護義務違反の罪と、同項後段の報告義務違反の罪は、併合罪の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人が車両等の運転中に交通事故を起こしたが、負傷者を救護する等の措置を講じず、かつ警察官等への報告も行わずに現場から立…
事件番号: 昭和38(あ)1049 / 裁判年月日: 昭和38年12月6日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項前段の救護等義務と後段の報告義務は、各々別個独立の義務であるため、いわゆる「ひき逃げ」の際には両義務違反の罪が成立し、併合罪の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は普通貨物自動車を運転中、過失によりAおよびBを負傷させる交通事故を起こした。被告人は、負傷者の救護等の措置を講じ…
事件番号: 昭和40(あ)285 / 裁判年月日: 昭和40年10月12日 / 結論: 棄却
下級裁判所が最高裁判所の破棄理由とした法律上の判断に従つてした判決に対しては、その法律上の判断を不服として上告することは許されないというべきである。(昭和三九年一一月二四日第三小法廷決定、刑集一八巻九号六三九頁参照)
事件番号: 昭和37(あ)2864 / 裁判年月日: 昭和38年4月30日 / 結論: 棄却
自動三輪車の運転者が、前方注視業務を怠つた過失により、道路上において歩行者に衝突し、同人を附近用水路に顛落させて頭部打撲挫創等の重傷(約三時間後に死亡)を負わせた場合、直ちに車の運転を停止して近所の人に援助を求め、同人等と協力して被害者を用水路より道路上に引き上げたが、その事故の重大であることに気づいて現場より逃れよう…