一 刑法五四条一項前段にいう一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価をうける場合をいう。 二 酒に酔つた状態で自動車を運転中に過失により人身事故を発生させた場合における道路交通法(昭和四五年法律第八六号による改正前のもの)六五条、一一七条の二第一号の酒酔い運転の所為と業務上過失致死の所為とは、酒に酔つた状態で運転したことが右過失の内容をなすものかどうかにかかわりなく、併合罪の関係にある。
一 刑法五四条一項前段にいう一個の行為の意義 二 酒に酔つた状態で自動車を運転中に過失により人身事故を発生させた場合における道路交通法(昭和四五年法律第八六号による改正前のもの)六五条、一一七条の二第一号の酒酔い運転の所為と業務上過失致死の所為との罪数
道路交通法(昭和45年法律86号による改正前のもの)65条,道路交通法(昭和45年法律86号による改正前のもの)117条の2第1号,刑法211条前段,刑法45条,刑法54条1項
判旨
酒酔い運転の罪と、その運転中に行われた業務上過失致死傷の罪は、社会的見解上別個のものと評価すべきであり、併合罪(刑法45条前段)の関係にある。
問題の所在(論点)
酒酔い運転の罪と、その継続中に発生させた業務上過失致死傷罪との罪数関係が、刑法54条1項前段の「一個の行為」にあたるか(観念的競合か併合罪か)。
規範
刑法54条1項前段にいう「一個の行為」とは、法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価を受ける場合を指す。
重要事実
被告人は、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある「酒酔い」の状態で普通乗用自動車を運転した。その継続的な運転の過程において、前方注視が困難な状態に陥りながら運転を中止しなかったという業務上の過失により、人身事故(致死)を発生させた。原判決は、道路交通法違反(酒酔い運転)と業務上過失致死罪を併合罪として処理したが、これに対し被告人側は、両罪が同一の機会に発生していることから観念的競合(刑法54条1項前段)にあたると主張して上告した。
事件番号: 昭和46(あ)1938 / 裁判年月日: 昭和47年6月9日 / 結論: 棄却
一 弁護人の上告趣意のうち判例違反をいう点は、第一審判決が本件業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪とを観念的競合として法令を適用したのに対し、両罪を併合罪と解すべきである旨を主張するに帰し、被告人に不利益な主張であるから不適法である。 二 (参考)本件は、犯罪事実として、業務上過失傷害罪および酒酔い運転の罪のほかに、被害者…
あてはめ
自動車を運転する行為は、通常、時間的継続と場所的移動を伴う動態である。これに対し、その運転過程で人身事故を発生させる行為は、運転継続中の一時点・一場所における事象にすぎない。自然的観察によれば、酒酔い状態での運転継続という行為と、特定の時点での事故惹起という行為は、たとえ飲酒が過失の内容をなす場合であっても、社会的見解上、別個のものと評価すべきである。したがって、両者は「一個の行為」には該当しない。
結論
酒酔い運転の罪と業務上過失致死罪は併合罪の関係にある。従来の判例(最決昭33・4・10)を変更し、原判決を正当として上告を棄却する。
実務上の射程
交通犯罪における罪数判断のリーディングケース。行為の単一性を「自然的観察による社会的評価」で決する基準を明確にした。実務上、飲酒運転中に事故を起こした場合は原則として併合罪となり、重い方の刑の1.5倍まで加重されることになる。この理は、過労運転等と事故の関係にも及ぶ。
事件番号: 昭和48(あ)2132 / 裁判年月日: 昭和49年1月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪は、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合に該当し、刑法54条1項前段により観念的競合の関係にある。被告人に不利益な変更を求める上告趣意は不適法として退けられる。 第1 事案の概要:被告人は酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転走行中に注意義務を怠っ…
事件番号: 昭和37(あ)2314 / 裁判年月日: 昭和39年4月7日 / 結論: 棄却
一 原判示の飲酒酩酊による無謀操縦の罪と業務上過失致死罪とは刑法第四五条前段の併合罪の関係にあると判示した原判決の結論は相当である(昭和三五年(あ)第二一二〇号同三八年一一月一二日第三小法廷判決参照)。 二 (原判示の要旨)所論は要するに論旨指摘の仙台及び札幌各高裁の二つの判例を挙げて飲酒酩酊して自動車の無謀操縦をした…
事件番号: 昭和45(あ)2554 / 裁判年月日: 昭和46年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と業務上過失傷害罪との罪数関係につき、前者の実行行為たる自動車の運転行為自体が後者の注意義務違反(過失)の内容をなす場合には、刑法54条1項前段により観念的競合と解すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、飲酒により正常な運転ができないおそれがある状態で普通乗用自動車を運転した(酒…
事件番号: 昭和48(あ)1969 / 裁判年月日: 昭和50年2月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と、その運転中に行われた業務上過失致死傷の罪とは、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合として、観念的競合(刑法54条1項前段)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転継続中に注意義務を怠って人身事故を起こし、他者に傷害を負わ…