自動車運転を業とする被告人が午後七時三〇分頃から清酒三合位及びウイスキー一合位を飲み、少しく酒に酔つて午後八時四五分頃、酒気を帯び自動車を正常に運転できない虞があり、更に酔が廻つて前方注視などが困難となり、正常運転ができなくなる状態であるのに、予め休息して酔の醒めるのを待つことなく、あえて自動三輪車を運転しはじめ午後九時二五分頃某路上にさしかかつた際、前方注視を怠り漫然直進したため前方右側道路上に設置しあつた街路燈に自車を衝突させてしまい、あわてて把手を左方にとられたため、対向自動車に自車を衝突させて、その乗者に傷害を負わせた場合は、道路交通取締法違反(飲酒酩酊による無謀操縦)の罪と業務上過失傷害罪との併合罪が成立する。
道路交通取締法違反(飲酒酩酊による無謀操縦)の罪と業務上過失傷害罪とが併合罪の関係にあるとされた事例。
刑法211条前段,刑法45条,道路交通取締法7条1項,道路交通取締法7条2項3号,道路交通取締法28条1号
判旨
酒酔い運転の罪と業務上過失致死傷罪は、前者が運転行為そのものを罰するのに対し、後者が過失による死傷結果を罰するものであるため、両者は併合罪の関係に立つ。また、交通事故発生時の報告・救護義務は、具体的被害の有無にかかわらず道路交通の安全維持のために課されるものである。
問題の所在(論点)
1.酒酔い運転の罪と業務上過失致死傷罪は、観念的競合か、それとも併合罪か。2.道路交通法上の事故発生時の措置義務違反の罪が成立するために、具体的な交通の安全の侵害という結果が必要か。
規範
1.酒酔い運転の罪と業務上過失致死傷罪の罪数関係については、行為の性質および保護法益の観点から、両者は別個の独立した罪として併合罪(刑法45条前段)の関係に立つ。2.交通事故における報告義務・措置義務(道路交通法上の義務)は、道路における危険を防止し交通の安全を図るという目的から、現実に交通の安全が侵害されたという結果の発生を要さず、事故発生後直ちに履行されるべきものである。
事件番号: 昭和46(あ)1938 / 裁判年月日: 昭和47年6月9日 / 結論: 棄却
一 弁護人の上告趣意のうち判例違反をいう点は、第一審判決が本件業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪とを観念的競合として法令を適用したのに対し、両罪を併合罪と解すべきである旨を主張するに帰し、被告人に不利益な主張であるから不適法である。 二 (参考)本件は、犯罪事実として、業務上過失傷害罪および酒酔い運転の罪のほかに、被害者…
重要事実
被告人は、免許を受けて自動三輪車の運転に従事していたが、飲酒により正常な運転が困難な状態で運転を開始した。その約5分前、別の自動車と衝突し損壊させる事故を起こしたが、救護や危険防止措置を講じることなく現場を立ち去った。その後、前方注視を怠って街路灯に衝突し、その反動で対向してきた自転車の被害者に衝突させ、傷害を負わせた。
あてはめ
1.被告人は酒酔い状態で運転を開始・継続しており、この運転行為自体が道路交通取締法違反を構成する。一方で、前方不注視により人を負傷させた行為は業務上過失傷害罪を構成する。これらは別個の行為と解され、併合罪となる。2.交通事故を起こした際、放置して去る行為は一般的に交通の安全を阻害する恐れがある。したがって、被告人は事故発生直後に速やかに原因や被害の程度を検査し応急措置を講ずべき義務があり、この義務は交通安全が具体的に侵害されたか否かにかかわらず発生する。
結論
1.酒酔い運転罪と業務上過失致死傷罪は併合罪となる。2.交通事故発生時の措置義務は、具体的な被害結果の発生を待たず、事故発生と同時に発生する。上告棄却。
実務上の射程
酒酔い運転と過失致死傷が併合罪となる点は、現在の判例実務でも踏襲されている基本的な考え方である(後行の判例により、飲酒運転の態様が過失の構成要素となっている場合には論理構成に注意を要するが、本判決は原則的な罪数判断を示すものとして重要)。また、事故後の措置義務が抽象的な危険を根拠に早期に発生することを確認した点も、答案作成上の基本知識となる。
事件番号: 昭和37(あ)2314 / 裁判年月日: 昭和39年4月7日 / 結論: 棄却
一 原判示の飲酒酩酊による無謀操縦の罪と業務上過失致死罪とは刑法第四五条前段の併合罪の関係にあると判示した原判決の結論は相当である(昭和三五年(あ)第二一二〇号同三八年一一月一二日第三小法廷判決参照)。 二 (原判示の要旨)所論は要するに論旨指摘の仙台及び札幌各高裁の二つの判例を挙げて飲酒酩酊して自動車の無謀操縦をした…
事件番号: 昭和40(あ)2793 / 裁判年月日: 昭和41年7月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項前段の救護義務違反と、同項後段の報告義務違反は、併合罪(刑法45条)の関係に立つ。また、酒酔い運転の罪と業務上過失傷害の罪も、併合罪として処断されるのが相当である。 第1 事案の概要:被告人は酒酔い状態で車両を運転し、業務上の過失により他人に傷害を負わせた(業務上過失傷害)。そ…
事件番号: 昭和43(あ)917 / 裁判年月日: 昭和45年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失致死傷罪と道路交通法の酒気帯び運転の罪とは、1つの運転行為に付随するものであっても、併合罪(刑法45条)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人が、酒気を帯びた状態で車両を運転し、その走行中に業務上の注意義務を怠ったことにより、人を負傷させる事故(業務上過失傷害)を起こした事案。弁護人は…
事件番号: 昭和45(あ)2554 / 裁判年月日: 昭和46年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と業務上過失傷害罪との罪数関係につき、前者の実行行為たる自動車の運転行為自体が後者の注意義務違反(過失)の内容をなす場合には、刑法54条1項前段により観念的競合と解すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、飲酒により正常な運転ができないおそれがある状態で普通乗用自動車を運転した(酒…