判旨
建造物損壊罪等の成立において、多数の人夫を用いて建造物を取り壊して撤去した事案では、特段の事情がない限り犯意が認められ、違法性の認識が全くなかったとはいえない。
問題の所在(論点)
建造物の取り壊し・撤去行為において、被告人が「犯意」を欠いていた、あるいは「違法性の認識」を欠いていたとして、犯罪の成立が否定されるか。
規範
犯罪の成立に必要な「犯意」は、自己の行為が構成要件に該当する事実の認識があれば足り、違法性の認識そのものは必ずしも必要ではない。ただし、仮に違法性の認識が問題となり得る事案であっても、客観的に権利侵害の態様が顕著な行為については、違法性の認識を欠くとは認められない。
重要事実
被告人は、多数の人夫を用い、判示の日時において本件建造物を取り壊した上で撤去した。被告人は、当該行為について犯意がなく、かつ違法性の認識も全くなかったと主張して上告した。
あてはめ
被告人は、単独ではなく「多数の人夫」を用いて組織的・計画的に建造物を破壊・撤去している。このような客観的事実からすれば、自己の行為が建造物を損壊するという構成要件に該当することの認識(犯意)は明白に認められる。また、法秩序に照らして許容されない態様での実力行使である以上、違法性の認識が全くなかったと認めることもできない。
結論
被告人に犯意および違法性の認識(の欠如)を否定した原判断は相当であり、建造物損壊等の罪が成立する。
実務上の射程
故意(犯意)の認定において、行為の態様(多人数での取り壊し等)から推認する手法を示す。違法性の認識については、厳格な不要説に近い立場を示唆しつつ、事実認定レベルで「全くないとはいえない」と処理する実務上の運用を追認したものといえる。
事件番号: 昭和28(あ)5224 / 裁判年月日: 昭和30年11月11日 / 結論: 棄却
被告人がその所有家屋(店舗)を増築する必要上、自己の借地内につきでていたA所有家屋の玄関の軒先を間口八尺奥行一尺にわたりAの承諾をえないで切り取つた場合において、右玄関はAが建築許可を受けないで不法に増築したものであり、また被告人の店舗増築は経営の危機を打開するため遷延を許さない事情にあつて、右軒先の切除によりAのこう…