原判決が挙示の証拠により確定した事実関係の下において、被告人が自己所有にかかる判示建物につき債権者甲のために根抵当権の設定されていることを知りながら(右根抵当権は被告人に抵抗できる関係にあつた)、人夫十数名を使役して右建物を完全に解体した所為を刑法第二六二条、同第二六〇条前段に該当するものとした原判決の判断は正当として是認すべきである。
自己所有にかかる建物につき根抵当権の設定されていることを知りながら、右建物を完全に解体した所為と擬律。
刑法262条,刑法260条前段
判旨
自己の所有する物であっても、他人の権利の目的である場合には、刑法262条により「他人の物」とみなされる。そのため、抵当権の設定された自己所有の建物を解体する行為は、建造物損壊罪(刑法260条)を構成する。
問題の所在(論点)
自己所有の建物に他人の根抵当権が設定されている場合、当該建物を解体する行為は刑法262条により他人の物とみなされ、刑法260条前段の建造物損壊罪を構成するか。
規範
刑法262条は、自己の物であっても、他人が権利を有し、又は保存の命を受けたものであるときは、「他人の物」とみなすと規定している。この「他人の権利」には、抵当権(根抵当権)等の担保権も含まれる。したがって、自己所有の物であっても他人の抵当権が設定されている場合には、同条により他人の物とみなされ、当該物件を損壊・破壊する行為は、刑法260条前段の建造物損壊罪の客体となる。
重要事実
被告人は、自己が所有する建物について、債権者Aのために根抵当権が設定されていることを認識しており、かつ当該根抵当権は被告人に対抗できる関係にあった。それにもかかわらず、被告人は人夫10数名を使役して、右建物を完全に解体した。
あてはめ
本件建物は被告人の所有物であるが、債権者Aのために根抵当権が設定されており、被告人もその事実を認識していた。根抵当権は刑法262条にいう「他人の権利」に該当するため、本件建物は同条により「他人の物」とみなされる。被告人は、10数名の人夫を使って建物を「完全に解体」しており、これは建造物の損壊に当たる。被告人は対抗要件の存在も含め、自らの所有物に他人の権利が設定されていることを認識した上で解体を行っていることから、建造物損壊罪の故意も認められる。
結論
被告人の所為は、刑法262条により他人の物とみなされる建造物を損壊したものとして、刑法260条前段の建造物損壊罪を構成する。
実務上の射程
自己所有物であっても担保権(抵当権・根抵当権等)が付着していれば、他人の物とみなされて損壊罪の客体となることを明示した。司法試験においては、他人の権利(質権、賃貸借、担保権等)の目的となっている自己所有物を破壊・隠匿する事例で、刑法262条を引用し、各本罪(損壊罪や隠匿罪)を成立させる際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和28(あ)5224 / 裁判年月日: 昭和30年11月11日 / 結論: 棄却
被告人がその所有家屋(店舗)を増築する必要上、自己の借地内につきでていたA所有家屋の玄関の軒先を間口八尺奥行一尺にわたりAの承諾をえないで切り取つた場合において、右玄関はAが建築許可を受けないで不法に増築したものであり、また被告人の店舗増築は経営の危機を打開するため遷延を許さない事情にあつて、右軒先の切除によりAのこう…