被告人がその所有家屋(店舗)を増築する必要上、自己の借地内につきでていたA所有家屋の玄関の軒先を間口八尺奥行一尺にわたりAの承諾をえないで切り取つた場合において、右玄関はAが建築許可を受けないで不法に増築したものであり、また被告人の店舗増築は経営の危機を打開するため遷延を許さない事情にあつて、右軒先の切除によりAのこうむる損害に比しこれを放置することにより被告人の受ける損害は甚大であつてとしても、被告人の右建造物損壊行為が自救行為としてその違法性を阻却されるものではない。
建造物損壊と自救行為
刑法35条,刑法260条
判旨
刑法260条に規定される「建造物」の意義について、大審院判例の解釈を維持し、自救行為の成否に関する原判決の判断を正当として上告を棄却した。
問題の所在(論点)
1. 刑法260条にいう「建造物」の意義。 2. 権利回復のために行われた破壊行為等について、自救行為による違法性阻却が認められるか。
規範
刑法260条の「建造物」とは、屋根及び周壁またはこれに代わるべき支柱を有し、土地に定着して、人がその内部に出入りし得る工作物を指す。また、自救行為が違法性阻却事由として認められるためには、公的機関の手続を待っていては権利の実行が不可能または著しく困難となる緊急の事情があり、かつ、その手段が相当であることを要する。
重要事実
本件において、被告人らは、特定の工作物に対して損壊行為等を行った。被告人側は、当該工作物が「建造物」に該当しないこと、および自らの権利を回復するための「自救行為」として正当化されることを主張して上告した。なお、具体的な工作物の形状や損壊の態様等の詳細は、本判決文(上告棄却決定)の記述からは不明である。
あてはめ
1. 建造物の意義について、原判決は大審院以来の判例(屋根、支柱・周壁、土地定着性、出入り可能性)と相反する点はなく、正当である。 2. 自救行為の主張についても、原判決の判断(緊急性や相当性の欠如を前提とするものと解される)を検討した結果、正当であると認められる。被告人の行為は、法的手続を介さず実力で行使されたものであり、適法な範囲を逸脱していると判断される。
結論
被告人の行為は建造物損壊罪等の構成要件に該当し、自救行為による違法性阻却も認められないため、有罪とした原判決は維持される。
実務上の射程
建造物損壊罪における「建造物」の定義を再確認するとともに、自救行為の成立範囲を極めて限定的に解する実務慣行を示す。答案上は、建造物の定義として「土地定着性・外気遮断性・人出入性」の3要素を摘示する際の根拠となるほか、私力救済が原則として禁止されていることの論拠として活用できる。
事件番号: 昭和58(あ)1072 / 裁判年月日: 昭和61年7月18日 / 結論: 棄却
被告人所有の建物につき根抵当権の設定を受けた甲が抵当権実行の結果自らこれを競落して、同人に対する所有権移転登記が経由された後、執行官が右建物につき不動産引渡命令の執行をしようとした際、被告人が同建物の損壊に及んだ等の判示の事実関係の下では、たとえ被告人が右根抵当権設定の意思表示は甲の側の詐欺によるものとしてこれを取り消…
事件番号: 昭和45(あ)1358 / 裁判年月日: 昭和46年7月30日 / 結論: 棄却
自救行為の主張は、刑訴法三三五条二項の主張にあたる。