被告人所有の建物につき根抵当権の設定を受けた甲が抵当権実行の結果自らこれを競落して、同人に対する所有権移転登記が経由された後、執行官が右建物につき不動産引渡命令の執行をしようとした際、被告人が同建物の損壊に及んだ等の判示の事実関係の下では、たとえ被告人が右根抵当権設定の意思表示は甲の側の詐欺によるものとしてこれを取り消したから同建物は依然として自己所有の物であると主張し、将来民事訴訟等において右詐欺の主張が認められる可能性を否定し去ることができないとしても、同建物は刑法260条の「他人ノ」建造物に当たるというべきである。
刑法二六〇条の「他人ノ」建造物に当たるとされた事例
刑法260条
判旨
刑法260条の「他人の」建造物とは、民事法上の所有権が将来否定される可能性が残されている場合であっても、客観的事実に基づき他人の所有に属するものとして登記等の法的外形が整っている場合にはこれに当たる。
問題の所在(論点)
刑法260条の「他人の」建造物といえるために、民事実体法上の所有権が確定的に帰属している必要があるか。詐欺取消による所有権復帰の可能性がある場合でも「他人の」物に当たるかが問題となる。
規範
刑法260条の「他人の」建造物に当たるというためには、他人の所有権が将来民事訴訟等において否定される可能性がないということまでは要しない。社会通念上、特定の者の所有に属すると信じて疑われない客観的な状況が存在し、かつ、その民事法上の所有権を否定すべき明白な事由がない限り、現実の所有関係に基づく法的外形を保護すべきである。
重要事実
被告人は、県漁連に対する債務の担保として自己所有の建物に根抵当権を設定し、その登記も経由された。その後、県漁連が競売を申し立て、自ら競落して所有権移転登記を完了した。執行官が不動産引渡命令の執行に臨んだ際、被告人は「10月まで待ってくれ」と延期を求めたのみで所有権を主張せず、当該建物を損壊した。被告人は、根抵当権設定が詐欺によるものであり、取消の意思表示をしたため所有権は被告人にあると主張した。
あてはめ
本件建物は、根抵当権設定、競落、代金支払、所有権移転登記という一連の法的妥当性を備えた手続を経て県漁連の所有名義となっている。被告人は引渡命令の執行時にも所有権を争わず執行猶予を求めており、社会通念上、県漁連の所有に属することに疑いのない状況にあった。たとえ第一審が指摘するように詐欺成立の可能性が否定できないとしても、登記等の客観的な所有関係が存在し、これを直ちに否定すべき明白な事由はない以上、法的外形に基づく県漁連の所有権は刑法上の保護に値する。
結論
本件建物は「他人の」建造物に当たり、建造物損壊罪が成立する。
実務上の射程
民事上の権利関係に争いがある事案でも、登記や競売手続等の法的外形が整っている限り、刑事手続において究極的な所有権の帰属を確定させる必要はないことを示した。実務上、権利関係の存否が争点となる財産犯全般において、法的安定性の観点から「他人の物」性を肯定する根拠として活用できる。
事件番号: 昭和55(あ)559 / 裁判年月日: 昭和57年3月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法260条の建造物損壊罪における「損壊」の意義について、判例は、対象物の効用を喪失させる行為を指すと解しており、本決定は当該解釈適用の誤りを主張する上告を排斥したものである。 第1 事案の概要:本件の上告理由書及び決定文からは具体的な犯行態様(どのような建造物に対し、どのような行為を行ったか)の…
事件番号: 平成18(あ)2197 / 裁判年月日: 平成19年3月20日 / 結論: 棄却
1 建造物に取り付けられた物が建造物損壊罪の客体に当たるか否かは,当該物と建造物との接合の程度のほか,当該物の建造物における機能上の重要性をも総合考慮して決すべきである。 2 住居の玄関ドアとして,外壁と接続し,外界とのしゃ断,防犯,防風,防音等の重要な役割を果たしている物(判文参照)は,適切な工具を使用すれば損壊せず…