一 登記簿上自己が所有名義人となつて預り保管中の不動産につき所有権移転登記手続請求の訴を提起された場合に、右不動産に対する不法領得意思の確定的発現として、右訴訟において自己の所有権を主張・抗争する所為は、不動産の横領罪を構成する。 二 土地の持分に対し貸借権の設定登記を受けた者が、すでに右土地に対し貸借権の設定を受けていた地方公共団体において、その設置かつ管理る高等学校の工程として使用していた場合に、実力をもつて工程にアパート建築現場と墨書した立札を掲げ、巾六間長さ約二〇間の範囲で二箇所にわたり地中に杭を打込み板付けをして、もつて保健体育の授業その他生徒の課外活動に支障を生ぜしめたときは、器物損壊罪を構成する。 三 右の場合、告訴権者は地方公共団体に設けられている教育委員会であるが、地方公共団体(長)も適法な告訴権を有する。
一 応訴して自己の所有権を主張・抗争する所為は横領罪を構成するか 二 器物損壊罪を構成する事例 三 右の場合地方公共団体(長)の告訴は適法か
刑法252条,刑法261条,教育委員会法(昭和31年9月30日廃止前のもの)48条,教育委員会法(昭和31年9月30日廃止前のもの)49条,地方教育行政の組織及び運営に関する法律23条,地方教育行政の組織及び運営に関する法律24条,地方教育行政の組織及び運営に関する法律28条,地方教育行政の組織及び運営に関する法律30条
判旨
不動産の保管者が自己の所有権を主張して抗争する行為は横領罪を構成し、他人が使用する校庭に杭を打ち込み授業を妨げる行為は器物損壊罪を構成する。また、公立学校の施設に対する損壊行為の告訴権については、教育委員会だけでなく地方公共団体の長も有する。
問題の所在(論点)
1.登記名義人が保管中の不動産につき所有権を主張して抗争する行為が、刑法252条1項の横領罪を構成するか。2.校庭に杭を打ち込む等の行為により土地の利用を妨げる行為が、刑法261条の器物損壊罪(効用の喪失)に当たるか。3.公立学校施設に対する器物損壊罪の告訴権者は誰か。
規範
1.横領罪における不法領得の意思は、自己が占有(登記名義を含む)する他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い処分する意思をいい、相手方の所有権主張に対し自己の所有権を主張して抗争する行為により確定的に発現する。2.器物損壊罪における「損壊」とは、物の効用を害する一切の行為を包含する。3.地方公共団体が設置する学校施設の管理権については、教育委員会が有するほか、本来の管理権者である地方公共団体の長も告訴権を有する。
重要事実
被告人は、登記簿上自己が所有名義人となって預かり保管中であった不動産について、真の所有者から所有権移転登記手続請求の訴えを提起された際、自己の所有権を主張して争った。また、地方公共団体が賃借し、公立高等学校の校庭として使用していた土地に対し、被告人は別途賃借権の設定を受けたとして、校庭に「アパート建築現場」と記した立札を掲げ、杭を打ち込んで板付けをした。これにより、保健体育の授業や生徒の課外活動に支障を生じさせた。
あてはめ
1.被告人は不動産の登記名義を有して保管する立場にありながら、所有権移転登記を求める訴訟において自己の所有権を主張した。これは不法領得の意思の確定的発現といえる。2.校庭に杭を打ち込み板付けをする行為は、校庭を保健体育の授業や課外活動に利用するという本来の目的に供することを困難にするものであり、土地の効用を害したと認められる。3.学校施設の管理は教育委員会に属するが、地方公共団体の長も当該団体の事務を総括する立場から管理権を保持しており、告訴権が認められる。
結論
1.不動産に対する横領罪が成立する。2.土地(校庭)に対する器物損壊罪が成立する。3.地方公共団体の長による告訴は有効である。
実務上の射程
不動産の二重譲渡事案以外でも、登記名義人が訴訟上で所有権を争うことが横領罪の実行行為(不法領得の意思の発現)となり得ることを示す。また、物理的な損壊(損壊・毀損)に至らずとも、心理的・機能的にその物の本来の用途に使用できなくさせる行為が「損壊」に該当するという、効用喪失説のリーディングケースとして活用できる。
事件番号: 昭和30(あ)2713 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: 棄却
不動産の所有権が売買によつて買主に移転した場合、登記簿上の所有名義がなお売主にあるときは、売主はその不動産を占有するものと解すべく、従つていわゆる二重売買においては横領罪が成立する。