一 登記簿上被告人の所有名義なるも、その承諾を得て甲が耕作し、後甲老齢のため長男乙が事実上耕作してきた水田につき、その所有権の帰属、耕作権の有無に関して係争中、被告人がほしいままに、乙が植付け所有する稲苗を抜き取り土中に埋めるなどする所為は、器物毀棄罪を構成する。 二 右の場合乙は器物毀棄罪の被害者にあたり、乙のした告訴は適法である。
一 器物毀棄罪を構成する事例 二 右の場合乙の告訴は適法か
刑法261条,刑法264条,刑訴法230条
判旨
他人が権原に基づいて植え付け、所有する稲苗を抜き取り毀棄した行為は、当該土地の所有権が被告人にあったとしても器物損壊罪を構成する。また、当該稲苗の所有者は本罪の被害者として適法に告訴をすることができる。
問題の所在(論点)
被告人が所有権を主張する土地において、他人が植え付けた稲苗を毀棄した場合に器物損壊罪が成立するか。また、土地の所有権に争いがある場合、稲苗を植え付けた耕作者は適法な告訴権者といえるか。
規範
器物損壊罪(刑法261条)の客体は「他人の物」であり、正当な権原に基づき土地を使用収益し、その地上に産物を植え付けた場合、その産物が他人の所有に属する限り、土地所有者による毀棄行為は同罪を構成する。また、損壊された物の所有者は同罪の直接の被害者として告訴権(刑訴法230条)を有する。
重要事実
被告人Aは本件水田の所有権を主張していたが、当該水田は従来Aの承諾の下でBが使用収益し、その後はBの長男Cが事実上耕作していた。農業委員会もC側に耕作権がある旨を告知しており、CはAからの返地要求を拒絶して占有を継続していた。被告人両名は、Cが上記権原に基づいて植え付けたC所有の稲苗約120把分を、Cの所有物であると認識しながら抜き取り、水田中に埋めて毀棄した。これに対し、Cが告訴を行い、公訴が提起された。
あてはめ
本件水田はBおよびCが少なくとも使用収益の権利を有しており、本件稲苗はCがその権原に基づいて植え付けたCの所有物であると認められる。被告人らは、当該稲苗がCの所有物であることを認識した上でこれを取り除いており、他人の物を損壊したといえる。したがって、水田自体の所有権が被告人側にあるとしても、C所有の稲苗を毀棄した所為は器物損壊罪の構成要件に該当する。また、毀棄された稲苗の所有者であるCは、本件犯罪の直接の被害者であるため、Cによる告訴およびそれに基づく公訴提起は適法である。
結論
被告人らの行為は器物損壊罪を構成し、被害者Cによる告訴は適法である。したがって、公訴棄却を求める被告人側の主張は認められない。
実務上の射程
自力救済の禁止を背景に、土地の所有権に争いがある場面でも、現に正当な占有権原に基づき他人が所有する定着物(稲苗等)を損壊すれば器物損壊罪が成立することを示す。答案上は、物の所有権の帰属と告訴権者の適格性を論じる際の基礎資料として活用できる。
事件番号: 昭和44(あ)1590 / 裁判年月日: 昭和45年12月22日 / 結論: 棄却
一、刑法二六一条の毀棄罪の告訴権者は、毀棄された物の所有者には限られない。 二、ブロツク塀、その築造されている土地およびその土地上の家屋の共有者の一人の妻で、右家屋に、米国に出かせぎに行つている夫のるすを守つて子供らと居住し、右塀によつて居住の平穏等を維持していた者は、右塀の損壊により害を被つた者として、告訴権を有する…
事件番号: 昭和31(あ)2696 / 裁判年月日: 昭和32年4月4日 / 結論: 棄却
一 労働争議中、労組組合員が、某会社の二階庇に掲げてあつた第二組合の木製看板を取り外し、これを同所から一四〇米離れた他家の板塀内に投げ棄てた場合および同会社の事務所土間に置いてある第二組合員家族より同組合員宛ての輸送小荷物に取りつけてあつた荷札を剥ぎ取り、これを持ち去つた場合には、いずれも刑法第二六一条の器物損壊罪が成…
事件番号: 昭和45(あ)1358 / 裁判年月日: 昭和46年7月30日 / 結論: 棄却
自救行為の主張は、刑訴法三三五条二項の主張にあたる。