一 労働争議中、労組組合員が、某会社の二階庇に掲げてあつた第二組合の木製看板を取り外し、これを同所から一四〇米離れた他家の板塀内に投げ棄てた場合および同会社の事務所土間に置いてある第二組合員家族より同組合員宛ての輸送小荷物に取りつけてあつた荷札を剥ぎ取り、これを持ち去つた場合には、いずれも刑法第二六一条の器物損壊罪が成立する。 二 石垣や煉瓦塀で囲まれて一般民家とは区劃せられ、責任者があつて看守し、三方に門があつて、その門にはいずれも木製観音開きの戸がついており、内側から閂で閉めるような仕組になつていて、毎晩定時に責任者がこれ等の門を閉めることになつており、内に社宅約二〇戸がある区劃内は刑法第一三〇条にいう「人ノ看守スル邸宅」にあたる。
一 刑法第二六一条の器物損壊罪が成立する事例 二 刑法第一三〇条にいう「人ノ看守スル邸宅」と認められる事例
刑法261条,刑法130条,軽犯罪法1条33号,軽犯罪法1条32号,労働組合法1条
判旨
刑法261条の器物損壊罪にいう「損壊」とは、物の本来の効用を喪失させることをいい、看板や荷札を物理的に破壊せずとも取り外す行為はこれに該当する。また、複数の社宅を含む一団の居住区域を「邸宅」(刑法130条)と認めることは正当である。
問題の所在(論点)
1.看板や荷札を損壊・破棄することなく単に取り外す行為が、器物損壊罪(261条)の「損壊」に該当するか。2.複数の社宅を含む広範な敷地を、住居侵入罪(130条)の「邸宅」と認定できるか。
規範
刑法261条の「損壊」とは、対象物の物質的損壊を伴う場合に限らず、その物の本来の効用を喪失させる一切の行為を包含する。また、刑法130条の「邸宅」については、個別の住居のみならず、それらを包含する一団の敷地・建物群を一つの管理単位として把握することが可能である。
重要事実
事件番号: 昭和42(あ)1078 / 裁判年月日: 昭和43年1月18日 / 結論: 棄却
会社の労働組合執行委員長等の地位にある被告人らが、多数の労働組合員と共謀のうえ、会社当局に対するいわゆる闘争手段として、四つ切大の新聞紙等に要求事項を記載したビラを、会社本社の二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁、社長室の扉の外側、同室内部の壁に約五〇枚、同事務室の窓ガラス、入口引戸、書棚、社長室の窓ガラス、衝立に約…
被告人らは、工場従業員組合の看板を本来設置されていた場所から取り外した。また、輸送中の荷物に付されていた荷札を取り外した。さらに、会社が管理する複数の社宅を含む一団の敷地(社宅地)内に侵入した。
あてはめ
看板や荷札は、特定の場所に掲示・添付されることで、情報の表示や識別という本来の機能を発揮するものである。これらを取り外す行為は、物理的な損壊がなくとも、その物の本来の効用を喪失させるものといえる。また、20数個の社宅を含む会社社宅地については、その実態に照らし、全体を一の管理権が及ぶ「邸宅」として認定することが適当である。
結論
看板および荷札の取り外しは器物損壊罪を構成し、社宅地全体を「邸宅」として住居侵入罪を適用した原判決は正当である。
実務上の射程
器物損壊罪における「効用喪失」概念のリーディングケースであり、心理的に使用できなくする行為(食器への放尿等)や場所的離隔(鳥籠の鳥を放つ等)も含む広範な処罰範囲を基礎付ける。邸宅の概念についても、囲繞地の管理権を考慮する実務の指針となる。
事件番号: 昭和44(あ)1876 / 裁判年月日: 昭和46年3月23日 / 結論: 棄却
多数の者とともに、会社当局に対する争議手段として、一頁大の新聞紙に、「犬と社長の通用口」「吸血ババA」「社長生かすも殺すもなまず舌三寸」「ナマズ釣つてもオカズナラヌ見れば見るほど胸が悪」等主として、会社社長らを誹謗する文言などを墨書したビラ約六一枚を、会社事務所の窓や扉のガラスに洗濯糊をもつて乱雑に貼りつけた行為は、原…
事件番号: 昭和40(あ)137 / 裁判年月日: 昭和41年6月10日 / 結論: 棄却
A公社職員をもつて構成するB労働組合東海地方本部副執行委員長等の地位にある被告人らが、多数の者と共謀の上、闘争手段として、当局に対する要求事項を記載したビラを、建造物またはその構成部分たる同公社東海電気通信局庁舎の壁、窓ガラス戸、ガラス扉、シヤツター等に、三回にわたり糊で貼付した所為は、ビラの枚数が一回に約四、五百枚な…
事件番号: 昭和39(あ)200 / 裁判年月日: 昭和40年4月16日 / 結論: 棄却
中華民国駐大阪総領事館邸の一階正面出入口上部中央に掲げられた、青天白日の同国国章を刻んだ横額の前面に、これとほぼ同形の、白地に黒く「台湾共和国大阪総領事館」と大書したベニヤ板製看板を、針金を用い、右横額上部の釘等に巻きつけ、これに重なり合うように密接して垂下させ、右国章を遮蔽する所為は、刑法第九二条にいう除去にあたる。…