A公社職員をもつて構成するB労働組合東海地方本部副執行委員長等の地位にある被告人らが、多数の者と共謀の上、闘争手段として、当局に対する要求事項を記載したビラを、建造物またはその構成部分たる同公社東海電気通信局庁舎の壁、窓ガラス戸、ガラス扉、シヤツター等に、三回にわたり糊で貼付した所為は、ビラの枚数が一回に約四、五百枚ないし約二五〇〇枚という多数であり、貼付方法が同一場所一面に数枚、数十枚または数百枚を密接集中させて貼付したこと等原審の認定した事実関係(原判文参照)のもとにおいては、右建造物の効用を減損するものであり、刑法第二六〇条にいう建造物の損壊に該当する。
いわゆる闘争手段としてのビラ貼り行為が刑法第二六〇条にいう建造物の損壊に該当するとされた事例
刑法260条
判旨
建造物に多数のビラを糊で密接集中させて貼付する行為は、その枚数や態様によって建造物の効用を減損させるものと認められる場合、刑法260条の建造物損壊罪を構成する。
問題の所在(論点)
建造物に対する多数のビラ貼付行為が、物理的な損壊(損壊・流失)を伴わない場合であっても、刑法260条の「損壊」に該当するか。
規範
刑法260条にいう建造物の「損壊」とは、建物の物質的な損壊に至らなくとも、その物の効用を減損させる行為を包含する。具体的には、貼付されたビラの数量、貼付の場所・方法、及びそれによる外観や利用への影響を総合的に考慮し、建造物としての適正な利用を妨げる程度に至っているか否かで判断すべきである。
重要事実
公社職員により構成される労働組合の幹部である被告人らは、闘争手段として、公社庁舎の壁、窓ガラス、ガラス扉、シャッター等に対し、3回にわたり多数のビラを糊で貼付した。ビラの枚数は1回につき約400枚から2500枚に及び、同一場所に数枚から数百枚を密接集中させて貼付する態様であった。
事件番号: 昭和42(あ)1078 / 裁判年月日: 昭和43年1月18日 / 結論: 棄却
会社の労働組合執行委員長等の地位にある被告人らが、多数の労働組合員と共謀のうえ、会社当局に対するいわゆる闘争手段として、四つ切大の新聞紙等に要求事項を記載したビラを、会社本社の二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁、社長室の扉の外側、同室内部の壁に約五〇枚、同事務室の窓ガラス、入口引戸、書棚、社長室の窓ガラス、衝立に約…
あてはめ
本件では、ビラの枚数が一回に約400枚から2500枚という極めて多数であり、かつ同一場所に数百枚を密接集中させて貼付するという執拗な方法が採られている。このような態様での糊付けによる貼付は、単なる一時的な掲示の域を超え、庁舎の壁や窓ガラス等の外観を著しく汚損し、本来の清潔な状態での利用という建造物の効用を減損させるものといえる。
結論
本件ビラ貼り行為は建造物の効用を減損するものと認められるため、刑法260条の建造物損壊罪が成立する。
実務上の射程
物理的な毀損(損壊)を伴わない事案でも「効用減損」により損壊罪を認めるリーディングケースである。答案上は、物の本来の用途を害したかという「効用減損説」の論拠として、ビラの枚数や態様の悪質性を具体的事実として摘示する際に活用すべきである。
事件番号: 昭和44(あ)1876 / 裁判年月日: 昭和46年3月23日 / 結論: 棄却
多数の者とともに、会社当局に対する争議手段として、一頁大の新聞紙に、「犬と社長の通用口」「吸血ババA」「社長生かすも殺すもなまず舌三寸」「ナマズ釣つてもオカズナラヌ見れば見るほど胸が悪」等主として、会社社長らを誹謗する文言などを墨書したビラ約六一枚を、会社事務所の窓や扉のガラスに洗濯糊をもつて乱雑に貼りつけた行為は、原…
事件番号: 昭和37(あ)468 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 破棄自判
一 駅長室の一部である室内の板壁や、白壁の下部の腰板に国鉄当局に対する要求事項等を墨書ないし印刷したビラ三四枚を、室内硝子窓、出入口の硝子戸、木製衝立等に同様のビラ三〇米を、メリケン粉製の糊でそれぞれ貼り付けた行為は、いまだ刑法上の建造物損壊罪ないし器物破損罪を構成するものでないと解するものを相当する。 二 検察官が犯…
事件番号: 昭和31(あ)2696 / 裁判年月日: 昭和32年4月4日 / 結論: 棄却
一 労働争議中、労組組合員が、某会社の二階庇に掲げてあつた第二組合の木製看板を取り外し、これを同所から一四〇米離れた他家の板塀内に投げ棄てた場合および同会社の事務所土間に置いてある第二組合員家族より同組合員宛ての輸送小荷物に取りつけてあつた荷札を剥ぎ取り、これを持ち去つた場合には、いずれも刑法第二六一条の器物損壊罪が成…