一 駅長室の一部である室内の板壁や、白壁の下部の腰板に国鉄当局に対する要求事項等を墨書ないし印刷したビラ三四枚を、室内硝子窓、出入口の硝子戸、木製衝立等に同様のビラ三〇米を、メリケン粉製の糊でそれぞれ貼り付けた行為は、いまだ刑法上の建造物損壊罪ないし器物破損罪を構成するものでないと解するものを相当する。 二 検察官が犯行後一年一月余を経過したときに建造物損壊罪並びに暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の罪(器物損害を内容とする)として公訴を提起いた公訴事実を、裁判所が軽犯罪法第一条第三三号に該当する事実と認めるときは、被告人に対し公訴時効が完成したものとして免訴の言渡をすべきである。
一 いわゆる闘争手段としてのビラ貼り行為が建造物損壊罪、器物損壊罪を構成しないものとされた事例。 二 建造物損壊罪並びに暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の罪(器物損壊を内容とする)として起訴された事実を軽犯罪法第一条第三三号に該当する事実と認定する場合と公訴の時効。
刑法260条,刑法261条,暴力行為等処罰ニ関スル法律(昭和39年法律114号による改正前のもの)1条1項,軽犯罪法1条33号,刑訴法250条,刑訴法337条4号,刑訴法411条1号
判旨
建造物等にビラを貼る行為が損壊にあたるかが争われたが、外観や効用を著しく害しない程度であれば建造物損壊罪等は成立せず、また、公訴提起時点で時効が完成している下位の罪への変更は免訴とされるべきである。
問題の所在(論点)
1. 建造物等に多数のビラを糊で貼り付ける行為が、刑法上の「損壊」に該当するか。2. 起訴された重い罪名(損壊罪)については時効にかからないが、認定された軽い罪名(軽犯罪法違反)が起訴時点で既に時効期間を経過している場合の処理はどうあるべきか。
規範
刑法260条の建造物損壊罪および同261条の器物損壊罪における「損壊」とは、対象物の効用を喪失させることをいうが、単なるビラの貼り付け行為については、その態様が建造物等の管理を著しく阻害し、または外観を著しく損なう等の事情がない限り、直ちに損壊罪を構成するものではない。また、訴因変更により認められる犯罪の公訴時効は、最初の起訴時を基準に判断されるが、その時点で既に時効が完成している場合には免訴(刑訴法337条4号)を言い渡すべきである。
事件番号: 昭和42(あ)1078 / 裁判年月日: 昭和43年1月18日 / 結論: 棄却
会社の労働組合執行委員長等の地位にある被告人らが、多数の労働組合員と共謀のうえ、会社当局に対するいわゆる闘争手段として、四つ切大の新聞紙等に要求事項を記載したビラを、会社本社の二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁、社長室の扉の外側、同室内部の壁に約五〇枚、同事務室の窓ガラス、入口引戸、書棚、社長室の窓ガラス、衝立に約…
重要事実
被告人は、駅の駅長室内の壁、ガラス窓、木製衝立等に対し、労働運動に関するビラ計64枚をメリケン粉製の糊で貼り付けた。検察官はこれを建造物損壊罪および器物損壊罪の内容を含む暴力行為等処罰法違反として起訴した。しかし、行為時から1年1ヶ月余を経過した後に起訴されており、原審は損壊罪の成立を否定した上で、軽犯罪法1条33号(ビラ貼り)の事実を認定し有罪とした。
あてはめ
1. 本件のビラ貼り行為は、墨書や印刷されたビラを糊で貼ったものであるが、建造物等の効用を喪失させる「損壊」には至らないとした原判決の判断は相当である。2. 一方、軽犯罪法1条33号の罪の法定刑は拘留または科料であり、公訴時効は1年(刑訴法250条6号)である。本件起訴は行為から1年を経過した後になされており、たとえ重い罪名で起訴されていたとしても、実質的に認められる軽犯罪法違反の罪については起訴時に既に時効が完成していたといえる。
結論
建造物損壊罪等の成立は否定される。また、認定された軽犯罪法違反の点については、起訴時に公訴時効が完成しているため、被告人に対し免訴を言い渡すべきである。
実務上の射程
損壊概念における「効用害損」の程度を画する判例として重要である。また、実務上、訴因変更や縮小認定の場面において、認定されるべき事実が起訴時点で既に時効にかかっている場合には、実体判決ではなく免訴判決をすべきであるという原則を示している。
事件番号: 昭和40(あ)137 / 裁判年月日: 昭和41年6月10日 / 結論: 棄却
A公社職員をもつて構成するB労働組合東海地方本部副執行委員長等の地位にある被告人らが、多数の者と共謀の上、闘争手段として、当局に対する要求事項を記載したビラを、建造物またはその構成部分たる同公社東海電気通信局庁舎の壁、窓ガラス戸、ガラス扉、シヤツター等に、三回にわたり糊で貼付した所為は、ビラの枚数が一回に約四、五百枚な…
事件番号: 昭和44(あ)1876 / 裁判年月日: 昭和46年3月23日 / 結論: 棄却
多数の者とともに、会社当局に対する争議手段として、一頁大の新聞紙に、「犬と社長の通用口」「吸血ババA」「社長生かすも殺すもなまず舌三寸」「ナマズ釣つてもオカズナラヌ見れば見るほど胸が悪」等主として、会社社長らを誹謗する文言などを墨書したビラ約六一枚を、会社事務所の窓や扉のガラスに洗濯糊をもつて乱雑に貼りつけた行為は、原…