会社の労働組合執行委員長等の地位にある被告人らが、多数の労働組合員と共謀のうえ、会社当局に対するいわゆる闘争手段として、四つ切大の新聞紙等に要求事項を記載したビラを、会社本社の二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁、社長室の扉の外側、同室内部の壁に約五〇枚、同事務室の窓ガラス、入口引戸、書棚、社長室の窓ガラス、衝立に約三〇枚、それぞれ糊を用いて貼りつけ、これらのビラの大部分を会社側がはがしたあとに合計五〇枚の同様のビラを貼りつけ、更にその大部分を会社側がはがしたあとに合計六〇枚の同様のビラを貼りつけ、更にその一部分を会社側がはがしただけで相当数が残存しているところに重複して合計約八〇枚の同様のビラを貼りつけた行為は、原審の認定した事実関係(原判文参照)のもとにおいては、刑法第二六〇条の建造物損壊および同法第二六一条の器物損壊に該当する。
いわゆる闘争手段としてのビラ貼り行為が刑法第二六〇条の建造物損壊および同法第二六一条の器物損壊に該当するとされた事例
刑法260条,刑法261条
判旨
建造物の壁面や室内の什器等に大量のビラを糊で貼付する行為は、当該物件の外観を著しく損ない、剥離に多大な労力を要させるものであるから、物の効用を減損させるものとして建造物損壊罪および器物損壊罪を構成する。
問題の所在(論点)
建物の壁や窓ガラス、備品等にビラを糊で貼付する行為が、刑法260条の建造物損壊罪および同261条の器物損壊罪にいう「損壊」に該当するか。
規範
刑法260条の「損壊」および同261条の「損壊」とは、対象物の物質的な損壊(物理的毀損)に限られず、その物の本来の効用を減損させる行為を包含する。外観を著しく汚損し、その復旧に多大な労力や費用を要する場合も、効用の減損に該当する。
重要事実
被告人らは会社当局への闘争手段として、四つ切大の新聞紙大のビラを、会社本社の階段・事務室・社長室の壁、窓ガラス、什器等に対し、延べ数百枚にわたり糊を用いて執拗に貼付した。会社側が剥がした後に繰り返し貼付を行い、相当数のビラが残存している状態を生じさせた。
事件番号: 昭和44(あ)1876 / 裁判年月日: 昭和46年3月23日 / 結論: 棄却
多数の者とともに、会社当局に対する争議手段として、一頁大の新聞紙に、「犬と社長の通用口」「吸血ババA」「社長生かすも殺すもなまず舌三寸」「ナマズ釣つてもオカズナラヌ見れば見るほど胸が悪」等主として、会社社長らを誹謗する文言などを墨書したビラ約六一枚を、会社事務所の窓や扉のガラスに洗濯糊をもつて乱雑に貼りつけた行為は、原…
あてはめ
本件では、四つ切大という比較的大型のビラを、事務室の壁面のみならず社長室や書棚、窓ガラスといった広範囲にわたり、合計で数百枚に及ぶ分量を糊で貼付している。会社側が剥離作業を行っても繰り返し貼付を継続している事実に鑑みれば、建物や什器の外観・清潔さといった本来の効用を著しく阻害しており、その復元には多大な労力を要すると評価できる。したがって、物理的な損壊がなくとも、これら建造物および器物の効用を減損させたといえる。
結論
被告人らの行為は、建造物損壊罪および器物損壊罪の「損壊」に該当する。
実務上の射程
物理的破壊を伴わない汚損行為(落書きやビラ貼り)について、「効用減損」の法理を適用して損壊罪の成立を認める際のリーディングケースである。特に、枚数の多さ、貼付部位の広範さ、反復継続性といった態様の悪質さが、効用減損の有無を判断する際の重要な考慮要素となる。
事件番号: 昭和40(あ)137 / 裁判年月日: 昭和41年6月10日 / 結論: 棄却
A公社職員をもつて構成するB労働組合東海地方本部副執行委員長等の地位にある被告人らが、多数の者と共謀の上、闘争手段として、当局に対する要求事項を記載したビラを、建造物またはその構成部分たる同公社東海電気通信局庁舎の壁、窓ガラス戸、ガラス扉、シヤツター等に、三回にわたり糊で貼付した所為は、ビラの枚数が一回に約四、五百枚な…
事件番号: 昭和31(あ)2696 / 裁判年月日: 昭和32年4月4日 / 結論: 棄却
一 労働争議中、労組組合員が、某会社の二階庇に掲げてあつた第二組合の木製看板を取り外し、これを同所から一四〇米離れた他家の板塀内に投げ棄てた場合および同会社の事務所土間に置いてある第二組合員家族より同組合員宛ての輸送小荷物に取りつけてあつた荷札を剥ぎ取り、これを持ち去つた場合には、いずれも刑法第二六一条の器物損壊罪が成…
事件番号: 昭和37(あ)468 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 破棄自判
一 駅長室の一部である室内の板壁や、白壁の下部の腰板に国鉄当局に対する要求事項等を墨書ないし印刷したビラ三四枚を、室内硝子窓、出入口の硝子戸、木製衝立等に同様のビラ三〇米を、メリケン粉製の糊でそれぞれ貼り付けた行為は、いまだ刑法上の建造物損壊罪ないし器物破損罪を構成するものでないと解するものを相当する。 二 検察官が犯…