公園内の公衆便所の白色外壁に,ラッカースプレーで赤色及び黒色のペンキを吹き付け,「反戦」,「戦争反対」及び「スペクタクル社会」と大書し,その建物の外観ないし美観を著しく汚損し,原状回復に相当の困難を生じさせた行為は,刑法260条前段にいう建造物の「損壊」に当たる。
公園内の公衆便所の外壁にラッカースプレーでペンキを吹き付け「反戦」等と大書した行為が刑法260条前段にいう建造物の「損壊」に当たるとされた事例
刑法260条
判旨
建造物の外壁にラッカースプレーで落書きをする行為は、外観や美観を著しく汚損し、原状回復に相当の困難を生じさせた場合、建物の効用を減損させたものとして建造物損壊罪の「損壊」に当たる。
問題の所在(論点)
建造物の外壁に、物理的な損壊(損壊、破壊等)を伴わない「落書き」を施す行為が、刑法260条前段の建造物損壊罪における「損壊」に該当するか。
規範
刑法260条前段にいう「損壊」とは、物の効用を害する一切の行為をいう。建造物の外壁に対する落書きについては、その外観・美観を著しく汚損し、原状回復に相当の困難を生じさせたといえる場合には、建造物の効用を減損させたものとして「損壊」に当たる。
重要事実
被告人は、区立公園内の公衆便所の白色外壁に対し、ラッカースプレーを用いて「反戦」等の文字を大書した。この落書きは外壁の大部分を埋め尽くすものであり、水道水や洗剤では消去不能であった。完全に消去して原状に回復するためには、ラッカーシンナーでも不十分で、約7万円の費用をかけて壁面を再塗装する必要があった。
あてはめ
本件建物は公園施設として外観・美観に工夫が凝らされていたが、落書きにより不体裁かつ異様な外観となり、美観が著しく損なわれた。これにより、利用者に抵抗感や不快感を与え、管理者がそのまま供用し続けるのが困難な状態に陥ったといえる(効用の減損)。また、洗浄による消去が不可能で再塗装に多額の費用を要する点から、原状回復に相当の困難が生じていると評価できる。
結論
被告人の行為は、建物の効用を減損させたものとして「損壊」に該当し、建造物損壊罪が成立する。
実務上の射程
「損壊」の定義が物理的な損壊に限られないことを示す重要な判例である。答案では、落書きが「美観を著しく損なうか」「原状回復が困難か(費用や手間の程度)」という2点から建物の効用減損を論理付ける際に活用する。器物損壊罪(261条)における損壊概念の解釈にも共通して援用可能である。
事件番号: 昭和42(あ)1078 / 裁判年月日: 昭和43年1月18日 / 結論: 棄却
会社の労働組合執行委員長等の地位にある被告人らが、多数の労働組合員と共謀のうえ、会社当局に対するいわゆる闘争手段として、四つ切大の新聞紙等に要求事項を記載したビラを、会社本社の二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁、社長室の扉の外側、同室内部の壁に約五〇枚、同事務室の窓ガラス、入口引戸、書棚、社長室の窓ガラス、衝立に約…
事件番号: 平成18(あ)2197 / 裁判年月日: 平成19年3月20日 / 結論: 棄却
1 建造物に取り付けられた物が建造物損壊罪の客体に当たるか否かは,当該物と建造物との接合の程度のほか,当該物の建造物における機能上の重要性をも総合考慮して決すべきである。 2 住居の玄関ドアとして,外壁と接続し,外界とのしゃ断,防犯,防風,防音等の重要な役割を果たしている物(判文参照)は,適切な工具を使用すれば損壊せず…
事件番号: 昭和40(あ)137 / 裁判年月日: 昭和41年6月10日 / 結論: 棄却
A公社職員をもつて構成するB労働組合東海地方本部副執行委員長等の地位にある被告人らが、多数の者と共謀の上、闘争手段として、当局に対する要求事項を記載したビラを、建造物またはその構成部分たる同公社東海電気通信局庁舎の壁、窓ガラス戸、ガラス扉、シヤツター等に、三回にわたり糊で貼付した所為は、ビラの枚数が一回に約四、五百枚な…