多数の者とともに、会社当局に対する争議手段として、一頁大の新聞紙に、「犬と社長の通用口」「吸血ババA」「社長生かすも殺すもなまず舌三寸」「ナマズ釣つてもオカズナラヌ見れば見るほど胸が悪」等主として、会社社長らを誹謗する文言などを墨書したビラ約六一枚を、会社事務所の窓や扉のガラスに洗濯糊をもつて乱雑に貼りつけた行為は、原審の認定した事実関係(原判文参照)のもとにおいては、右窓ガラスや扉のガラスとしての効用を著しく減損するものであり、争議行為の手段として相当ではなく、暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二六一条)の罪が成立する。
いわゆる闘争手段としてのビラ貼り行為について、暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二六一条)の罪が成立するとされた事例
暴力行為等処罰に関する法律1条,刑法261条,刑法35条,労働組合法1条2項
判旨
労働争議に伴い、会社の窓ガラスや扉に多数の誹謗中傷ビラを洗濯糊で乱雑に貼り付ける行為は、物の効用を著しく減損させるものであり、正当な争議行為の範囲を逸脱し器物損壊罪(暴力行為等処罰法違反)を構成する。
問題の所在(論点)
労働争議の手段として行われたビラ貼り行為が、刑法261条の「損壊」に該当するか。また、憲法28条等に基づく正当な争議行為として違法性が阻却されるか。
規範
争議行為としての外形を有する行為であっても、その手段・方法が、対象物の本来の効用を著しく減損させるものである場合には、刑法上の違法性を阻却する正当な争議行為の範囲を逸脱し、犯罪を構成する。
重要事実
被告人らは、会社当局に対する争議手段として、多数の者とともに、会社社長らを「吸血ババ」「なまず」等と誹謗する文言を墨書した一頁大のビラ約61枚を、会社事務所の窓や扉のガラスに洗濯糊を用いて乱雑に貼り付けた。
事件番号: 昭和42(あ)1078 / 裁判年月日: 昭和43年1月18日 / 結論: 棄却
会社の労働組合執行委員長等の地位にある被告人らが、多数の労働組合員と共謀のうえ、会社当局に対するいわゆる闘争手段として、四つ切大の新聞紙等に要求事項を記載したビラを、会社本社の二階事務室に至る階段の壁、同事務室の壁、社長室の扉の外側、同室内部の壁に約五〇枚、同事務室の窓ガラス、入口引戸、書棚、社長室の窓ガラス、衝立に約…
あてはめ
本件ビラ貼り行為は、単なる情報の掲示にとどまらず、洗濯糊を用いて約61枚ものビラを窓や扉のガラスに乱雑に貼り付けたものである。このような態様は、窓ガラスや扉の本来の機能である採光や見通し、出入りの円滑さを妨げるものであり、客観的に「効用を著しく減損する」ものと認められる。したがって、表現の自由や争議権の行使という側面を考慮しても、手段として相当な範囲を超えている。
結論
被告人らの行為は、窓ガラス等の効用を著しく減損するものであり、争議行為の手段として不相当である。よって、暴力行為等処罰法(器物損壊)の罪が成立する。
実務上の射程
器物損壊罪における「損壊」の意義(効用減損説)を具体化する判例。剥がすことが困難、あるいは汚損が激しく原状回復に多大な労力を要する場合は、物理的な破壊を伴わなくとも損壊に当たることを示唆する。答案上は、ビラ貼りの態様(枚数・糊の種類・場所)を検討し、正当業務行為(刑法35条)の限界を論じる際の基準として用いる。
事件番号: 昭和40(あ)137 / 裁判年月日: 昭和41年6月10日 / 結論: 棄却
A公社職員をもつて構成するB労働組合東海地方本部副執行委員長等の地位にある被告人らが、多数の者と共謀の上、闘争手段として、当局に対する要求事項を記載したビラを、建造物またはその構成部分たる同公社東海電気通信局庁舎の壁、窓ガラス戸、ガラス扉、シヤツター等に、三回にわたり糊で貼付した所為は、ビラの枚数が一回に約四、五百枚な…
事件番号: 昭和31(あ)2696 / 裁判年月日: 昭和32年4月4日 / 結論: 棄却
一 労働争議中、労組組合員が、某会社の二階庇に掲げてあつた第二組合の木製看板を取り外し、これを同所から一四〇米離れた他家の板塀内に投げ棄てた場合および同会社の事務所土間に置いてある第二組合員家族より同組合員宛ての輸送小荷物に取りつけてあつた荷札を剥ぎ取り、これを持ち去つた場合には、いずれも刑法第二六一条の器物損壊罪が成…
事件番号: 昭和37(あ)468 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 破棄自判
一 駅長室の一部である室内の板壁や、白壁の下部の腰板に国鉄当局に対する要求事項等を墨書ないし印刷したビラ三四枚を、室内硝子窓、出入口の硝子戸、木製衝立等に同様のビラ三〇米を、メリケン粉製の糊でそれぞれ貼り付けた行為は、いまだ刑法上の建造物損壊罪ないし器物破損罪を構成するものでないと解するものを相当する。 二 検察官が犯…
事件番号: 昭和61(あ)1311 / 裁判年月日: 平成3年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】争議行為等の労働組合活動が正当性を有し違法性を欠くというためには、その動機や目的のいかんにかかわらず、態様が社会通念上許容される限度を超えないものでなければならない。 第1 事案の概要:被告人らは労働組合活動の一環として何らかの行為(具体的な実行行為の内容は判決文からは不明)に及んだが、その態様が…