一 刑法一三〇条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいう。 二 建造物の管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であつても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、建造物侵入罪の成立を免れない。
一 刑法一三〇条前段にいう「侵入」の意義 二 建造物の管理権者が立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合と建造物侵入罪の成否
刑法130条前段
判旨
刑法130条前段の「侵入」とは、管理権者の意思に反する立ち入りを指し、あらかじめ立入り拒否の意思が明示されていなくとも、建造物の性質や目的等から客観的に管理権者が容認していないと判断される場合は同罪が成立する。
問題の所在(論点)
管理権者が事前に立入り拒否の意思を外部に明示(具体的措置を講じる等)していなかった場合において、管理権者の「意思に反する」立入りがあったといえるか(刑法130条前段の「侵入」の意義)。
規範
刑法130条前段の「侵入」とは、他人の看守する建造物等に「管理権者の意思に反して」立ち入ることをいう。管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であっても、(1)建造物の性質、(2)使用目的、(3)管理状況、(4)管理権者の態度、(5)立入りの目的などを総合考慮し、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、侵入に該当する。
重要事実
被告人らは、春季闘争の一環として多数のビラを貼付する目的で、夜間、多人数で郵便局舎内に立ち入った。管理権者である局長は事前にビラ貼りを警戒し、被告人らが局舎内で「大幅賃上げ」等のビラ約1000枚を乱雑に貼付しているのを確認するや、即座に退去を求めた。郵政省庁舎管理規程では管理権者の許諾なきビラ貼りは禁止事項とされており、被告人らの行為は軽犯罪法違反に該当し得る規模であった。
あてはめ
本件では、(1)郵便局舎という公共的施設であるが、(2)管理権者の了解なきビラ貼りを禁ずる管理規程があり、(3)局長自ら警戒にあたっていた。(4)被告人らは夜間に多人数で立ち入り、(5)施設管理権を害し正当な組合活動の範囲を超える規模のビラ貼りを行った。これらの事情に照らせば、管理権者が具体的阻止措置をとっていなくとも、当該立入りを容認していなかったことは客観的に明らかであり、管理権者の意思に反する。また、権限のない宿直員が立入りを許諾したとしても、管理権者の意思判断を左右しない。
結論
管理権者の意思に反する立入りとして、建造物侵入罪の構成要件に該当する。
実務上の射程
「管理権者の意思」を判断基準とする「真実の意思説(主観説)」を前提としつつ、その意思の存否は客観的事実から合理的に推認されるとする。答案では、管理権者の具体的拒否がなくても、施設目的外の不当な目的がある場合には「管理権者が容認していないと合理的に判断される」として「侵入」を肯定する論法として用いる。
事件番号: 昭和39(あ)2588 / 裁判年月日: 昭和42年8月28日 / 結論: 棄却
D労働組合員約六〇名が、鉄道管理、局係員の制止無視して、午前八時過ぎごろ、管理局庁舎屋上に立入り、屋上から懸垂幕をたらしたり、鉄道旗を掲揚中の柱に組合旗を併わせて掲げたりしたうえ、同庁舎四階から屋上に通ずる出入口の戸を屋上の側から押えて閉鎖し、同管理局関係者の屋上への立入を阻止する態勢をととのえ、次いで同庁舎前に参集し…
事件番号: 昭和28(あ)56 / 裁判年月日: 昭和31年10月24日 / 結論: その他
某会社がその従業員一三名に対し解雇通知および同会社への立入禁止の通告をしたのに対し、同会社労働組合側では右解雇通知の当否を調査し、不当なものについては法定の手続によつて救済を求むべく事後の対策を協議中にもかかわらず、右解雇および立入禁止の通告を受けた二名およびこれを関知した同会社従業員でもなく同会社労働組合員でもない一…