一、刑法二六一条の毀棄罪の告訴権者は、毀棄された物の所有者には限られない。 二、ブロツク塀、その築造されている土地およびその土地上の家屋の共有者の一人の妻で、右家屋に、米国に出かせぎに行つている夫のるすを守つて子供らと居住し、右塀によつて居住の平穏等を維持していた者は、右塀の損壊により害を被つた者として、告訴権を有する。
一、刑法二六一条の毀棄罪の告訴権者 二、刑法二六一条の毀棄罪の告訴権者にあたるとされた事例
刊法261条,刊法264条,刑訴法230条
判旨
器物損壊罪の告訴権者は所有者に限定されず、適法な占有権原に基づき当該物件の効用を享受している者など、犯罪により直接的に害を被った者も含まれる。
問題の所在(論点)
親告罪である器物損壊罪において、所有者以外の占有者(居住者)が刑訴法230条の「犯罪により害を被った者」として告訴権を有するか。
規範
刑訴法230条にいう「犯罪により害を被った者」とは、犯罪行為によって直接的に法益を侵害された者を指す。器物損壊罪(刑法261条)においては、物の所有者のみならず、適法な占有権原に基づき物件を利用・収益することでその効用を享受している者も、その利益が保護されるべきであるから、告訴権を有する被害者に当たると解すべきである。
重要事実
本件ブロック塀およびその敷地・建物の共有者の一人であるBの妻Aは、米国に出稼ぎ中のBに代わって留守を守り、子供らと共に当該家屋に居住していた。Aは、当該ブロック塀によって居住の平穏等を維持・享受していたが、被告人がこのブロック塀を損壊したため、Aが告訴を行った。弁護人は、告訴権者は所有者に限られるとする大審院判例を根拠に、Aの告訴の有効性を争った。
あてはめ
本件においてAは、共有者である夫Bの不在中、当該家屋の留守を預かり適法に居住している者である。Aはブロック塀が存在することによって居住の平穏という具体的利益を享受していたといえる。したがって、ブロック塀の損壊は、単に所有権を侵害するだけでなく、居住者であるAが適法に享受していた当該物件の効用を直接的に侵害するものである。ゆえに、Aは本件損壊行為によって直接「害を被った者」に該当する。
結論
Aは本件ブロック塀の損壊により害を被った者として、適法に告訴権を有する。したがって、本件告訴は有効であり、公訴提起の手続に違法はない。
実務上の射程
器物損壊罪の保護法益には、所有権のみならず利用・占有の利益も含まれることを前提に、告訴権者の範囲を柔軟に解釈した。答案上は、賃借人や受寄者など、適法な占有権原を有する者が被害を被った場合の告訴権の有無を論じる際に、本判例を引用して所有者限定説を否定する。
事件番号: 昭和34(あ)2368 / 裁判年月日: 昭和35年12月27日 / 結論: 棄却
一 登記簿上自己が所有名義人となつて預り保管中の不動産につき所有権移転登記手続請求の訴を提起された場合に、右不動産に対する不法領得意思の確定的発現として、右訴訟において自己の所有権を主張・抗争する所為は、不動産の横領罪を構成する。 二 土地の持分に対し貸借権の設定登記を受けた者が、すでに右土地に対し貸借権の設定を受けて…
事件番号: 昭和29(あ)1287 / 裁判年月日: 昭和29年7月14日 / 結論: 棄却
所論告訴状名義者はいずれも本件器物の管理者であつて、告訴権を有するものであることは裁判所会計事務に関する規定上明らかである。