記録によれば、一審判決が、本件器物損壊の被害者はAであると認定し、同人からの適法な告訴がないのに、被告人らを有罪としたのに対し、原判決は、被害者はBであり、同人からの適法な告訴があつたことが認められるから、一審判決の右事実誤認は、犯罪の成否に影響を及ぼさない事項に属するとして、被告人らの控訴を棄却したことが認められる。しかし、一審判決の認定した事実を基礎とすれば、本件は訴訟条件を欠き、公訴棄却の裁判がなされるべき場合であつたのであるから、これを目して犯罪の成否に影響を及ぼさない事実誤認として、そのまま控訴を棄却した原審の処置は、相当ではなかつたといわなければならない。しかしながら、原審の認定するところによれば、本件被害者はBであり、また、その認定を肯認するに足りる証拠も存在する。そうだとすれば、訴訟条件も完備しているのであるから、原判決の前記判断のあやまりも、未だ判決に影響を及ぼすべき法令違反とはいえない。
刑訴法第四一一条にあたらないとされた事例。―器物損壊罪において第一審が被害者を誤認しかつ訴訟条件を欠くのに有罪とした場合の控訴審の処置―
刑訴法411条,刑法261条,刑法264条
判旨
第一審判決が親告罪の被害者を誤認し、適法な告訴がないのに有罪とした場合、控訴審が被害者を正しく認定し直し、告訴の存在を確認したとしても、第一審の事実誤認を「犯罪の成否に影響を及ぼさない事項」として控訴を棄却する処置は不当であるが、結論において訴訟条件が完備されている以上、判決に影響を及ぼす法令違反とはならない。
問題の所在(論点)
親告罪において第一審が告訴のない被害者を誤認して有罪判決を下した場合に、控訴審が独自の事実認定に基づき告訴のある真実の被害者を特定した上で、第一審の誤りを「判決に影響を及ぼさない」として控訴棄却できるか(刑訴法379条、382条の解釈)。
規範
親告罪において、第一審が認定した被害者に基づけば訴訟条件(適法な告訴)を欠き、公訴棄却(刑訴法338条4号)の裁判がなされるべきであった場合、その事実は「犯罪の成否に影響を及ぼさない事項」ではなく、判決に直結する重大な事実誤認である。もっとも、控訴審が証拠に基づき真実の被害者を認定し、その者による適法な告訴の存在を認めることができるならば、全体として訴訟条件は完備されており、第一審の判断の誤りは判決に影響を及ぼすべき法令違反(同379条、410条1項)とはいえない。
重要事実
被告人らは器物損壊罪(刑法261条、親告罪)で起訴された。第一審判決は、被害者をAであると認定した。しかし、記録上、Aからの適法な告訴は存在しなかった。一方、原審(控訴審)は、真実の被害者はBであり、Bからは適法な告訴がなされていたと認定した。原審は、第一審の被害者認定の誤りは「犯罪の成否に影響を及ぼさない事項」に属するとして、被告人らの控訴を棄却した。
あてはめ
第一審の認定を基礎とする限り、本件は告訴という訴訟条件を欠くため、本来は公訴棄却の裁判がなされるべきであった。したがって、原審がこれを「犯罪の成否に影響を及ぼさない事実誤認」として控訴を棄却した処置自体は相当ではない。しかし、原審が認定した通り、真実の被害者がBであり、Bの適法な告訴が存在するという証拠が認められる以上、客観的には訴訟条件は完備されている。そうであれば、第一審が有罪とした結論自体は妥当であり、原審が第一審の判断過程を一部誤りとした点も、最終的な判決の結果を左右するほどの法令違反には当たらない。
結論
本件各上告を棄却する。原判決の判断手法には不備があるが、訴訟条件が完備されている以上、判決に影響を及ぼすべき法令違反とはいえない。
実務上の射程
訴訟条件(告訴)の有無という実手続上の重要事項について、第一審の誤認があった場合でも、控訴審が自ら事実認定を行い、客観的な訴訟条件の具備を確認できれば、一審の瑕疵は治癒され、判決に影響を及ぼさないと判断される。答案上は、被害者特定と告訴の有効性が争われる場面で、手続的瑕疵の程度を論じる際の参照となる。
事件番号: 昭和27(あ)4948 / 裁判年月日: 昭和29年3月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官による公訴提起において、同種の違反行為をした数人のうち一部の者のみが起訴され、他が起訴されない場合であっても、直ちに憲法14条の法の下の平等に違反するものではない。 第1 事案の概要:被告人は損壊行為に関与したとして起訴されたが、弁護人は、被告人以外にも本件損壊行為に関与した者が存在すること…