判旨
公判調書に記載義務のない訴訟手続が未記載であっても、直ちに不履践とは認められない。また、被害届は被告人の自白を補強する証拠となり得る。
問題の所在(論点)
1. 公判調書に記載のない訴訟手続の履践不全の有無。2. 被害届が憲法38条3項の補強証拠となり得るか。
規範
公判調書に記載する必要のない事項(刑事訴訟規則44条)が記載されていないことをもって、当該訴訟手続が履践されなかったと解することはできない。また、憲法38条3項の補強証拠については、自白の真実性を担保するに足りる証拠であれば、被害届であっても補強証拠となり得る。
重要事実
被告人は第一審において有罪判決を受けたが、弁護人は、(1)起訴状朗読や黙秘権告知等の手続が公判調書に記載されていないため不履践であること、(2)自白の補強証拠とされた被害届は証拠能力を欠き、憲法38条3項に違反することを理由に上告した。記録上、被害届はA名義で作成され、被害者をBとする内容であった。
あてはめ
1. 起訴状朗読や黙秘権告知等は刑訴規則44条により公判調書への記載を要しない事項である。したがって、記載がないからといって不履践があったとは断定できず、手続違背の主張は前提を欠く。2. 本件被害届は、特定の犯罪事実につき被告人の自白の真実性を補強する内容を備えており、補強証拠としての適格性を有する。よって、自白のみによる処罰を禁じた憲法38条3項には抵触しない。
結論
被告人の上告を棄却する。公判調書の記載欠如は直ちに手続違背を意味せず、また、被害届による自白の補強は適法である。
実務上の射程
公判調書の記載による手続履践の証明力(刑訴法52条)の限界を示す。記載義務のない事項については、不記載を理由に取消しを求めることは困難である。また、補強証拠の適格性について、実質的に自白の真実性を裏付けるものであれば証拠の種類を問わないとする実務を肯定するものである。
事件番号: 昭和46(あ)2528 / 裁判年月日: 昭和47年3月9日 / 結論: 棄却
所論の被害届(A作成名義)は第一審判示第二の窃盗の事実(注一)につき被告人の自白の補強証拠とするに足りる旨の原判決の判断(注二)は、正当である。 (注一)第一審判示第二の窃盗の事実−「被告人は、昭和四五年六月下旬ころ奈良県橿原市a町b番地A方タイヤ置場において、同人所有の中古普通乗用自動車用タイヤ四本(時価四、〇〇〇円…