判旨
判決に影響を及ぼさない事実誤認は、器物損壊罪の成否を左右せず、上告理由にはあたらない。被害車両のバックミラーの損壊態様について一部誤認があっても、罪の成否や目撃証言の信憑性に影響しない限り、原判決は維持される。
問題の所在(論点)
原判決がバックミラーの損壊態様を「根元からもぎ取られた」と認定した事実誤認が、器物損壊罪の成否および判決の結果に影響を及ぼすか。
規範
刑法上の器物損壊罪の成否において、損壊の具体的な態様(全部破壊か一部破壊か等)に事実誤認があったとしても、その誤認が構成要件の充足性および有罪認定の基礎となる証拠の信憑性に影響を及ぼさない場合には、当該誤認は「判決に影響を及ぼすべき著しい事実誤認(刑訴法411条3号参照)」には当たらない。
重要事実
被告人が他人の自動車のバックミラーを損壊したとして器物損壊罪で起訴された事案。原判決(第一審判決を是認したもの)は、バックミラーが「脚部諸共にその根元からもぎ取られた」と認定した。しかし、証拠(写真報告書、押収物、証言)によれば、実際には脚部は車体に残存しており「鏡面のみがもぎ取られた」事態であった。
あてはめ
まず、バックミラーが脚部から取れたか鏡面のみ取れたかは、いずれも「損壊」に該当するため、器物損壊罪の成否自体には影響しない。次に、証人Dは金属音を聞いて被告人を目撃したと述べているが、鏡面のみをもぎ取った場合でも相当の金属音が発生すると推認される。したがって、損壊態様の誤認は証言の信憑性を左右せず、被告人が犯人であるという事実認定を揺るがすものではない。ゆえに、右誤認は判決に影響を及ぼさない。
結論
本件事実誤認は判決に影響を及ぼさないため、上告を棄却し、原判決を維持する。
実務上の射程
事実認定の細部に誤りがあっても、それが直ちに破棄理由になるわけではないことを示す事例である。答案作成においては、事実誤認の主張を検討する際、その事実が構成要件の該否や証拠の証明力(信憑性)にどう結びついているかを論理的に分析する指標となる。
事件番号: 昭和25(あ)2838 / 裁判年月日: 昭和26年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の上告趣意が単なる事実誤認の主張にとどまる場合、刑訴法405条所定の上告理由には当たらない。また、職権による破棄を認めるべき刑訴法411条の適用事由も存在しない場合には、上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:被告人が上告を申し立てたが、その趣意書の内容は原判決の事実認定を争う事実誤認の…
事件番号: 昭和25(あ)3223 / 裁判年月日: 昭和26年9月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実誤認や量刑不当の主張は刑訴法405条の上告理由に該当せず、職権で破棄すべき事由も認められない場合には上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:被告人側は、原判決に事実誤認および量刑不当があることを理由として上告を申し立てた。 第2 問題の所在(論点):事実誤認または量刑不当の主張が、刑訴法4…