第一審判決は広義における殺意を判示したに止まるのであるから、原判決が事実誤認の論旨につき少くとも殺害の未必的故意のあつたことを認定して事実誤認がない旨判示しても、理由齟齬の生じないことは明らかである。
理由にくいちがいがないとされた事例。 ――広義における殺意を認定した第一審判決を控訴審が少くとも殺害の未必的故意があつたと認定して事実誤認の主張を排斥した事例。
刑訴法414条,刑訴法378条4号,刑法199条
判旨
第一審が広義の殺意を判示したのに対し、控訴審が未必の故意の存在を認定して控訴を棄却しても、理由の齟齬は生じず適法である。殺人罪の成立において、確定的な殺意と未必の故意は法的に同質のものとして扱われる。
問題の所在(論点)
第一審が「広義の殺意」を認め、控訴審が「未必の故意」を認めた場合に、判決理由に齟齬があるとして訴訟法上の違法事由(刑訴法378条4号参照)となるか。すなわち、確定的な殺意と未必の故意を区別して認定することの要否が問題となる。
規範
殺人罪(刑法199条)における構成要件的故意は、死の結果が発生することを確定的に認識・認容している場合に限られない。結果発生の可能性を認識し、かつそれを認容している「未必の故意」があれば、広義の殺意として故意の成立を認めるに足りる。したがって、判決において一方の表現を用いて事実認定を行っても、故意の存否という法的判断において矛盾は生じない。
重要事実
被告人が殺人罪で起訴された事案において、第一審判決は「広義における殺意」があった旨を判示して有罪とした。これに対し、被告人側は事実誤認を主張して控訴したが、控訴審(原判決)は「少なくとも殺害の未必的故意があった」と認定し、第一審に事実誤認はないとして控訴を棄却した。弁護人は、第一審の認定と控訴審の認定が食い違っており、理由に齟齬があるとして上告した。
あてはめ
第一審が認定した「広義における殺意」という概念には、確定的な殺意のみならず未必の故意も含まれると解される。控訴審が、証拠に基づき「少なくとも殺害の未必的故意があった」と具体的に認定したことは、第一審が認めた故意の範囲をより明確にしたものに過ぎない。両者は共に殺人罪の故意を構成する要素として法的価値に差はなく、事実認定の方向性において矛盾するものではないといえる。したがって、原判決の判断は合理的な範囲内であり、理由の齟齬は存在しない。
結論
未必の故意は広義の殺意に含まれるため、第一審と控訴審で表現が異なっても理由の齟齬には当たらず、殺人罪の故意の認定は適法である。
実務上の射程
故意の認定において「確定的故意」か「未必の故意」かは厳密に区別せずとも「故意」として一括して認定可能であることを示唆する。答案上は、殺意の有無が争点となる場面で、確実な殺害意図が認められない場合であっても、未必の故意(認識+認容)があれば故意を肯定できる根拠として利用できる。
事件番号: 昭和57(あ)1807 / 裁判年月日: 昭和58年5月6日 / 結論: 棄却
「未必の殺意をもつて、被害者の身体を、有形力を行使して、被告人方屋上の高さ約〇・八メートルの転落防護壁の手摺り越しに約七・三メートル下方のコンクリート舗装の路上に落下させて路面に激突させた」旨判示し、被害者を屋上から落下させた手段・方法を右以上に具体的に摘示していない場合でも、右判示は、殺人未遂罪の罪となるべき事実中の…