被告人の智能年令が、本件犯行当時九歳ないし一一歳相当であつたとしても、そのため直ちに被告人が心神喪失の状態にあつたものとすることはできない旨の原判示は、相当である。
心神喪失の状態にあつたものとすることはできないとした事例−智能年令との関係。
刑法39条,刑訴法318条
判旨
被告人の知能年齢が9歳ないし11歳相当であるとしても、その事実のみから直ちに刑法39条1項にいう心神喪失の状態にあったと解することはできない。
問題の所在(論点)
被告人の知能年齢が9歳から11歳相当という低い水準にある場合、それのみを理由として刑法39条1項の「心神喪失」に当たると解すべきか。
規範
心神喪失(刑法39条1項)とは、精神の障害により、事物の是非善悪を弁別する能力(事理弁別能力)またはその弁別に従って行動する能力(制御能力)が欠如している状態をいう。知能年齢の低さは一つの判断要素となり得るが、その数値のみによって直ちに責任能力の有無が決定されるものではない。
重要事実
被告人は本件犯行当時、知能年齢が9歳ないし11歳相当であった。弁護人は、被告人がこのような低い知能年齢であったことから、犯行当時は心神喪失の状態にあったと主張して、事実誤認および上告理由を申し立てた。
あてはめ
本件において、被告人の知能年齢が9歳ないし11歳相当であった事実は認められる。しかし、責任能力の有無は、知能指数や知能年齢という形式的指標のみならず、犯行時の精神状態、犯行の態様、動機、犯行前後の行動等を総合して判断されるべきものである。本件記録によれば、被告人は心神耗弱の状態にはあったものの、事理弁別能力や行動制御能力が完全に失われた心神喪失の状態には達していなかったと評価される。
結論
被告人の知能年齢が9歳ないし11歳相当であったとしても、直ちに心神喪失の状態にあったものとすることはできない。
実務上の射程
責任能力の判断における生物学的要素(精神障害の有無・程度)と心理学的要素(弁別・制御能力)の相関関係を示す。特に知的障害事案において、知能年齢という形式的な基準に拘束されず、具体的な犯行状況から能力の有無を判断する実務慣行を支持するものである。
事件番号: 昭和32(あ)184 / 裁判年月日: 昭和32年10月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】精神病質(異常人格)者であっても、知能の程度が正常であり、犯行当時における自己の行為の是非を弁別し、これに従って行動する能力が著しく減退していなければ、心神耗弱には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は精神病質(異常人格)を有していた。一方で、被告人の知能の程度は正常であった。第一審および原審に…