被告人が犯行当時精神分裂病に罹患していたからといつて、そのことだけで直ちに被告人が心神喪失の状態にあつたとされるものではなく、その責任能力の有無・程度は、被告人の犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機・態様等を総合して判定すべきである。
精神分裂病者と責任能力
刑法39条
判旨
刑事責任能力の有無は、法律判断として専ら裁判所の判断に委ねられる。裁判所は、精神鑑定書の結論に拘束されず、鑑定内容や犯行前後の諸事情を総合して判断することができる。
問題の所在(論点)
刑法39条の責任能力の有無(心神喪失・心神耗弱の該当性)の判断権者は誰か。また、専門家による精神鑑定の結論と異なる裁判所の判断は許されるか。
規範
被告人の精神状態が刑法39条にいう心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは法律判断であり、専ら裁判所の判断に委ねられている。裁判所は、精神鑑定の結果に拘束されるものではなく、鑑定書の記載内容、他の精神鑑定の結果、さらに犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機・態様等の諸事情を総合して判断すべきである。
重要事実
被告人が刑事事件に問われた際、提出された精神鑑定書(および鑑定人尋問)には、被告人が犯行当時「心神喪失」の状態にあった旨の結論が記載されていた。しかし、原審は当該鑑定書の結論部分のみを採用せず、鑑定書全体の記載内容や他の鑑定結果、さらに記録上認められる犯行前後の生活状況や犯行の動機・態様を総合的に検討した。その結果、被告人は犯行当時、統合失調症(精神分裂病)の影響により「心神耗弱」の状態にとどまっていたと認定した。
事件番号: 平成20(あ)1718 / 裁判年月日: 平成21年12月8日 / 結論: 棄却
1 裁判所は,特定の精神鑑定の意見の一部を採用した場合においても,責任能力の有無・程度について,当該意見の他の部分に拘束されることなく,被告人の犯行当時の病状,犯行前の生活状態,犯行の動機・態様等を総合して判定することができる。 2 精神医学者の精神鑑定における意見のうち被告人が心神喪失の状態にあったとする部分を前提資…
あてはめ
責任能力の有無は法律判断であるため、鑑定人の意見に形式的に拘束されることはない。本件では、鑑定書が「心神喪失」との結論を出していても、鑑定書全体の詳細な分析や、犯行の動機が理解可能であること、犯行態様が合目的的であること等の臨床外の事実を総合すれば、裁判所が独自の評価として「心神耗弱」と認定することは正当である。事実、原審は鑑定の結論以外の要素を総合して合理的な認定を行っているといえる。
結論
被告人が犯行当時心神耗弱の状態にあったとした原判決の認定は、裁判所の専権に属する正当な法律判断として是認される。
実務上の射程
責任能力に関する「法律判断説」のリーディングケース。答案では、鑑定結果を尊重しつつも、犯行前後の具体的言動(合目的性、隠蔽工作の有無等)といった「事実」に基づき、裁判所が規範的に評価すべきであることを論じる際に用いる。鑑定の結論を斥ける場合には、鑑定の前提となった事実の合理性や、他の証拠との整合性を具体的に論述する必要がある。
事件番号: 昭和31(あ)721 / 裁判年月日: 昭和33年2月11日 / 結論: 棄却
二つの精神鑑定書の各結論の部分に、いずれも、被告人が犯行当時心神喪失の情況にあつた旨の記載があつても、其部分を採用せず、右鑑定書全体の記載内容とその他の情況証拠とを綜合して、心神耗弱の事実を認定することは、必ずしも経験則に反するとはいえない。