二つの精神鑑定書の各結論の部分に、いずれも、被告人が犯行当時心神喪失の情況にあつた旨の記載があつても、其部分を採用せず、右鑑定書全体の記載内容とその他の情況証拠とを綜合して、心神耗弱の事実を認定することは、必ずしも経験則に反するとはいえない。
心神耗弱と認めたことが経験則に違反しない事例
刑訴法317条,刑訴法318条,刑訴法411条1号,刑訴法165条,刑法39条
判旨
裁判所は鑑定人の精神鑑定の結果に拘束されず、鑑定書の一部の結論を排斥し、その他の記載内容や諸証拠を総合して被告人の責任能力を判断することができる。
問題の所在(論点)
裁判所が精神鑑定の結論部分を排斥し、鑑定書の他の記載や諸証拠に基づき、鑑定結果とは異なる責任能力の状態(心神耗弱)を認定することは、経験則に反するか。また、心神喪失中の供述とされるものの証拠能力(任意性)が問われた。
規範
裁判所は鑑定人の鑑定結果に拘束されるものではなく、鑑定資料の一部を採用し、またはその結論のみを排斥することも可能である。責任能力の有無は法律判断であり、鑑定書全体の記載内容のほか、判決に示された他の諸証拠を総合して裁判所が最終的に決定すべき事柄である。
重要事実
被告人の精神状態について精神鑑定が実施された。第一審判決は、提出された精神鑑定書の結論部分を採用しなかったものの、当該鑑定書の全体的な記載内容および他の証拠を総合的に検討し、被告人が犯行当時「心神耗弱」の状態にあったと認定した。弁護人は、鑑定の結論を排斥して心神耗弱を認定したことは経験則に反し、被告人が心神喪失状態であったことを示す供述調書には任意性がないとして上告した。
あてはめ
第一審判決が、精神鑑定の結論部分のみを機械的に採用せず、鑑定書全体の詳細な記載内容を精査したことは合理的である。さらに、鑑定以外の判決に示された諸証拠を総合して心神耗弱の事実を導き出したプロセスには、経験則に反する不合理な点は認められない。また、供述調書の任意性については、心神喪失中の強制によるものとは認められず、憲法38条2項および刑訴法319条1項に違反する事由はないと解される。
結論
鑑定の結論を排斥し、諸証拠に基づき心神耗弱を認定した原判決の判断は相当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
責任能力に関する鑑定の性質を「裁判所を拘束しない」とする重要判例である。答案上では、鑑定結果を尊重すべきとしつつも、最終的には裁判所が諸般の事情(犯行の態様、動機、犯行前後の行動等)を総合して法的評価を下すべきという論理を展開する際の根拠となる。
事件番号: 昭和26(あ)3176 / 裁判年月日: 昭和28年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の精神障害の有無は、事実審裁判所が諸般の資料により適正に決すべき職権事項であり、必ずしも常に専門家による鑑定を要するものではない。 第1 事案の概要:被告人が精神障害の状態にあったか否かが問題となった事案。弁護人は、精神障害の有無の判断において専門家の鑑定を経なかったことが憲法37条1項に違…