判旨
被告人の精神障害の有無は、事実審裁判所が諸般の資料により適正に決すべき職権事項であり、必ずしも常に専門家による鑑定を要するものではない。
問題の所在(論点)
被告人の精神障害(責任能力)の有無を判断するにあたり、裁判所は必ず精神鑑定を実施しなければならないか(鑑定の必要性)。
規範
被告人の責任能力に関わる精神障害の有無の判断は、事実審裁判所が諸般の資料を総合的に評価して決定すべき職権事項である。したがって、裁判所が自ら判断を行うにあたり、必ずしも常に専門的な知識を有する者による精神鑑定を経なければならないものではない。
重要事実
被告人が精神障害の状態にあったか否かが問題となった事案。弁護人は、精神障害の有無の判断において専門家の鑑定を経なかったことが憲法37条1項に違反する旨を主張して上告した。また、原判決の作成日付が「3月18日」とされていたが、記録上は5月に審理・結審が行われており、書記官の領収日付も5月であった。
あてはめ
精神障害の有無は裁判所の職権事項であり、諸般の資料によって適正に判断されるべきものである。本件において、裁判所が鑑定を実施せずに判断したとしても、直ちに適正な裁判を受ける権利(憲法37条1項)を侵害する違法があるとはいえない。また、判決書の作成日付については、記録上の公判経過や検証の日時、書記官の原本領収日等に照らせば、「3月」は「5月」の明白な誤記であると認められ、判決の効力に影響を及ぼすような違法は認められない。
結論
精神障害の判断に際し鑑定は必須ではなく、裁判所が諸般の資料に基づき自ら判断することは適法である。上告棄却。
実務上の射程
責任能力の判断が法律的判断であることを前提に、鑑定の証拠調べの必要性に関する裁量を認める判例として位置づけられる。実務上は鑑定が行われることが多いが、鑑定結果に拘束されず、諸般の事情(犯行前後の言動等)を総合考慮して裁判所が決すべきとする現在の確立した判例理論の基礎となっている。
事件番号: 昭和25(れ)1443 / 裁判年月日: 昭和26年4月24日 / 結論: 棄却
原審は被告人の原審公判廷の供述及びその態度並びに訴訟記録その他諸般の情況に照らし被告人の精神状態に所論のような異常がないと判断しているのである。そうして事実審裁判所が被告人の犯行当時における精神状態について疑のない程度にその認識を得た場合にはわざわざ専門家に鑑定させてその結果を判断の資料に供する必要はないのである。(昭…
事件番号: 昭和37(あ)2693 / 裁判年月日: 昭和38年9月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が被告人の供述や態度、他の証拠等から犯行時に精神異常がなかったとの心証を得た場合、専門家による鑑定を命じなくても経験則違反の違法はない。また、被告人側の証拠調べ請求に対し、裁判所が必要でないと認めて却下することは憲法37条2項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、被告人の精神状…