判旨
犯行当時における犯人の精神状態を判断するにあたっては、必ずしも常に専門家の鑑定に俟つことを要せず、証人の供述等の諸証拠を総合して認定することができる。
問題の所在(論点)
被告人の犯行時の精神状態を認定するにあたり、常に専門家の鑑定を経る必要があるか。また、鑑定によらず証人供述等に基づき心神耗弱を否定する認定の適否が問われた。
規範
被告人の精神状態(刑法39条)の有無及び程度は、裁判所が法律的判断として行うべきものであり、その判断にあたっては必ずしも常に専門家による精神鑑定の結果を基礎とすることを要しない。証人の供述、被告人の供述、その他の客観的証拠を総合し、裁判所の自由心証に基づいて判断することが可能である。
重要事実
被告人が犯行時に飲酒していた事実について、その精神状態(責任能力)が問題となった事案。第一審及び原審は、専門家による精神鑑定を経ることなく、証人Aの公判供述やBの検察官に対する供述調書といった証拠に基づき、被告人は当時酒に酔っていたものの心神耗弱の域には達していなかったと認定した。これに対し、弁護人が「精神状態の判断は常に専門家の鑑定を基礎とすべきである」と主張して上告した。
あてはめ
最高裁は、過去の判例(昭和22年(れ)第317号等)を引用し、精神状態の判断は必ずしも常に専門家の鑑定に依拠すべきものではないとの立場を明確にした。本件において、原判決が精神鑑定を行う代わりに、証人Aの供述やBの供述調書などの証拠を総合評価したことは、証拠法則に照らして正当な認定プロセスであると評価される。したがって、鑑定がないことをもって直ちに違法とすることはできない。
結論
被告人の精神状態の判断に専門家の鑑定は必須ではなく、証人供述等に基づき心神耗弱を否定した原判決に判例違反や訴訟法違反は認められない。
実務上の射程
責任能力の有無(刑法39条)に関する認定手法の基本を示す。実務上、精神鑑定は極めて重要な証拠ではあるが、最終的な判断権は裁判所にあり、鑑定結果に拘束されない(あるいは鑑定なしでも認定可能である)という裁判所の判断権限を強調する文脈で活用される。もっとも、現代の実務では鑑定を軽視することは許されず、鑑定がある場合にそれと異なる判断をするには高度な合理的理由が必要とされる点に注意を要する。
事件番号: 昭和26(れ)40 / 裁判年月日: 昭和26年3月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】飲酒による酩酊状態であっても、直ちに刑法39条2項の心神耗弱に当たるとは限らず、事実審の裁量による事実認定を基礎として責任能力の有無が判断される。 第1 事案の概要:被告人は本件犯行当時、飲酒により酩酊した状態にあった。弁護人は、この飲酒酩酊状態を根拠として、被告人が心神耗弱の状態にあったと主張し…