一 裁判所は人の精神状態を認定するのに必ずしも專門家の鑑定等による必要なく、他の證據によつて認定しても差支ない。 二 心神耗弱とか心神喪失とかいうことは刑事訴訟法第三六〇條にいう處の罪となるべき事實ではないから、これを認定した證據の説明をする必要はない。 三 所論改正刑法施行以前に第二審判決が爲された事件に付ては所論執行猶豫に關する改正は其の適用のないものであること既に當裁判所の判例とする處である。(昭和二二年六月二二日言渡、同二二年(れ)第三三九號事件判決)
一 人の精神状態の認定と鑑定等の要否 二 心神耗弱又は心神喪失の認定と刑訴第三六〇條第一項 三 第二審判決後なされた刑の執行猶豫の條件に關する規定の改正と上告の適否
刑訴法336條,刑訴法337條,刑訴法360條1項,刑訴法415條,刑法39條,刑法25條
判旨
裁判所は、専門家の鑑定等によらずに他の証拠によって被告人の精神状態を認定することができ、かつ、責任能力の有無は罪となるべき事実に当たらないため、その認定に際して証拠の説明を要しない。
問題の所在(論点)
裁判所が専門家の鑑定を経ずに被告人の責任能力を認定することの可否、および心神喪失・心神耗弱の認定について証拠の説明(証拠の挙示)を要するか否か。
規範
被告人の精神状態(心神喪失・心神耗弱)の有無を認定するにあたり、裁判所は必ずしも専門家の鑑定を経る必要はなく、他の証拠によって認定することが可能である。また、心神喪失等の事由は刑罰権の発生・範囲を規定する前提事実ではあるが、当時の刑事訴訟法(旧法)下において、判決書に記載すべき「罪となるべき事実」には該当しないため、その判断の根拠となる証拠を詳細に説明する義務はない。さらに、減軽の程度や酌量減軽の適否は、事実審の裁量に属する事項である。
重要事実
被告人が刑事事件について控訴審判決を受けた際、その精神状態(責任能力)の認定に関し、専門家の鑑定等の証拠に基づかない認定は不当であるとして上告した事案。また、正当防衛の成否や自首の成立、量刑の不当、及び法改正による執行猶予規定の適用についても争点となった。原審は、特定の証拠により精神状態を判断し、自首や正当防衛の成立を否定した上で刑を量定していた。
あてはめ
本件において、被告人の精神状態は鑑定以外の証拠によって認定されており、これは裁判所の適法な事実認定権限の範囲内である。また、心神喪失や心神耗弱の存否は「罪となるべき事実」そのものではないため、判決においてこれらを否定するにあたり証拠を付して説明する必要はないといえる。さらに、正当防衛や自首の主張についても、原審の事実認定に経験則違反等の違法は認められず、刑の減軽や量定は事実審の自由裁量に属するため、被告人の主張は単なる事実誤認の主張であって上告理由に当たらないと解される。
結論
被告人の精神状態を鑑定なしに認定することは適法であり、責任能力の有無に関する判断に証拠の説明は不要である。
実務上の射程
本判決は責任能力の認定手法に関する古典的判例であり、鑑定を絶対視せず裁判所の裁量を認める立場を示す。現在の刑事訴訟法335条1項の「罪となるべき事実」との関係では、責任能力の判断は「法律上犯罪の成立を妨げる理由となる事実」として、同条2項に基づく判断を示すべき事項にあたり得る点に留意が必要である。
事件番号: 昭和26(れ)128 / 裁判年月日: 昭和26年5月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】心神喪失等の精神状態の有無を判断するにあたり、必ずしも専門家の鑑定を経る必要はなく、他の証拠によってこれを判断することが認められる。 第1 事案の概要:被告人は「相当飲酒」した状態で犯行に及んだが、原審はその酩酊の程度が心神喪失または心神耗弱の段階に達していた事実は認定しなかった。弁護人は、専門家…