酪酊の上の犯行であつてその酪酊の程度が心神喪失の程度に達していたかどうかについては必ずしも精神鑑定による必要はなく他の證據によつてこれを認定しても差支へないものであるから原審が前示の如く他の證據によつてその判断を下したことをもつて違法ということはできない。
酪酊の程度の認定と精神鑑定の要否
刑法39條,刑訴法337條
判旨
飲酒酩酊による心神喪失の有無を判断するに当たり、必ずしも精神鑑定を要するものではなく、被害者の供述等の他の証拠によって認定することも許される。
問題の所在(論点)
刑法39条1項の心神喪失の有無を判断するに際し、精神鑑定を経ることなく他の証拠のみに基づいて判断を下すことが許されるか。
規範
被告人が犯行当時、酩酊により心神喪失の状態にあったか否かの認定については、必ずしも専門家による精神鑑定を必要としない。犯行前後の動静や被害の顛末に関する他の証拠によって、裁判所が合理的な判断を下すことができる。
重要事実
被告人は警察の取調べ以来、本件犯行は飲酒酩酊の上のものであり、覚醒後は犯行について全く記憶がないと一貫して供述していた。原審は、本件犯行が飲酒酩酊の上でなされた事実は認めたが、被害者3名に対する検事調書中の供述に基づき、被告人の動静や被害の顛末を認定し、被告人が心神喪失の状態にはなかったと判断した。
あてはめ
原審は、被害者の供述記載を証拠として援用し、被告人の具体的な動静や犯行の経緯を詳細に検討している。これら客観的な状況や他者の目撃供述があれば、精神鑑定という専門的手段を経ずとも、被告人が事物の是非善悪を弁別し、それに従って行動する能力を完全に欠いていた(心神喪失)とはいえないと認定することが可能である。したがって、鑑定を実施しなかった判断に違法はない。
結論
被告人は犯行当時心神喪失の状態に至っていなかったものと認定でき、精神鑑定を経ない原判決に違法はない。
実務上の射程
裁判所による責任能力の判断は法律判断であり、鑑定結果に拘束されないという原則を確認するものである。実務上は、鑑定がない場合でも、犯行の合目的性や記憶の有無、周囲の者の観察供述から責任能力を肯定するロジックとして活用される。
事件番号: 昭和23(れ)1963 / 裁判年月日: 昭和23年7月16日 / 結論: 棄却
刑訴應急措置法第一二條の規定は、憲法第三七條第二項の趣旨に反するものでないことは當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年(れ)第八三三號同二四年五月一八日大法廷判決參照)