判旨
裁判所が被告人の供述や態度、他の証拠等から犯行時に精神異常がなかったとの心証を得た場合、専門家による鑑定を命じなくても経験則違反の違法はない。また、被告人側の証拠調べ請求に対し、裁判所が必要でないと認めて却下することは憲法37条2項に違反しない。
問題の所在(論点)
裁判所が専門家による精神鑑定を実施せず、他の証拠等に基づき責任能力の有無を判断することが許されるか。また、被告人側の証拠調べ請求を却下することが憲法37条2項に違反するか。
規範
1. 責任能力の判断について、裁判所が被告人の公判廷における供述や態度、証言等の他の資料を総合して、犯行当時の被告人の精神状態に異常がなかったとの心証を形成し得る場合には、専門家に鑑定を命じないとしても直ちに経験則違反の違法とはならない。2. 憲法37条2項は、裁判所が必要と認めない場合であっても被告人が申請する証人を全て取り調べなければならない趣旨ではない。
重要事実
被告人の弁護人は、被告人の精神状態に異常があったと主張し、精神鑑定の実施を求めていた。しかし、原審は被告人の供述や態度、その他の証拠に基づき、犯行当時の責任能力を肯定し、被告人側が申請した精神鑑定の請求を却下した。これに対し弁護人は、鑑定を経ずに責任能力を判断した点に経験則違反があること、及び証拠請求の却下が公平な裁判を受ける権利(憲法37条1項)や証人喚問権(同2項)を侵害するものであると主張して上告した。
あてはめ
1. 裁判所は、被告人の供述内容や態度の検討に加え、証人の証言等の資料と相まって、犯行当時の被告人の精神状態に異常がなかったとの心証を形成している。このような場合、あえて鑑定を命じなくても経験則に反する不法があるとはいえない。2. 憲法37条2項は絶対的な証拠調べ義務を課すものではなく、裁判所が必要でないと判断した証拠請求を却下することは適法である。本件でも裁判所が責任能力を認めた以上、鑑定申請を却下したことに違憲の余地はない。
結論
原審が精神鑑定を行わずに被告人の責任能力を肯定し、鑑定請求を却下したことは、経験則に反せず、憲法37条1項・2項にも違反しない。本件上告を棄却する。
実務上の射程
裁判所による鑑定の要否に関する裁量を認めた重要判例。実務上、責任能力が争点となる事案であっても、公判廷での態度や他証拠から判断可能な場合には必ずしも鑑定は必須ではないという枠組みを示す。ただし、鑑定が必要な事案においてこれを怠れば経験則違反となり得る余地も残している点に注意が必要である。
事件番号: 昭和26(あ)3176 / 裁判年月日: 昭和28年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の精神障害の有無は、事実審裁判所が諸般の資料により適正に決すべき職権事項であり、必ずしも常に専門家による鑑定を要するものではない。 第1 事案の概要:被告人が精神障害の状態にあったか否かが問題となった事案。弁護人は、精神障害の有無の判断において専門家の鑑定を経なかったことが憲法37条1項に違…