判旨
裁判所が被告人の公判廷における供述や態度、訴訟記録等の資料に基づき、被告人に精神の異状がないと認めた場合には、特段の事情がない限り、重ねて専門家による精神鑑定を命ずる必要はない。
問題の所在(論点)
裁判所が、被告人側の精神鑑定の請求を却下し、独自の判断で精神の異状はないと認定することが、証拠調べの裁量の範囲内として許容されるか。
規範
裁判所は、被告人の公判廷における供述、態度、および訴訟記録等の諸資料を総合的に考慮し、被告人に精神の異状がないと判断できる場合には、独自の裁量により、重ねて専門家による精神鑑定を行う必要がないと判断することができる。
重要事実
被告人は殺人の犯行当時、精神異状の状態にあり殺意もなかったと主張し、弁護人とともに医学的専門家による精神鑑定を求めた。しかし、第一審および第二審裁判所は、被告人の公判廷での供述内容やその態度、記録上の諸事実から精神の異状を認めなかったため、鑑定請求を却下した。被告人は、これを憲法違反および訴訟手続の違法として上告した。
あてはめ
本件において、裁判所は被告人の公判廷における直接の供述や態度を観察し、さらに訴訟記録を精査した。その結果、被告人が精神的に異状を来している形跡はないと認定した。このような裁判所による事実認定のプロセスが適正である以上、医学的専門知識を欠く裁判所であっても、精神鑑定を必須とせずに責任能力や犯行時の心理状態を判断することは、事実審裁判所の合理的な証拠調の裁量の範囲内に属するといえる。
結論
被告人に精神の異状がないと裁判所が認めた以上、精神鑑定を命ずる必要はなく、鑑定請求を却下した判断に違法はない。したがって上告は棄却される。
実務上の射程
責任能力の有無が問題となる事案において、常に精神鑑定が必須となるわけではなく、公判廷での態度や訴訟記録から裁判所が判断可能であることを示した。実務上は、裁判所の証拠調の裁量を肯定する根拠として引用されるが、現代の裁判実務では重大事件を中心に精神鑑定が実施されるのが通例であり、本判例の射程は「明らかに異状がないと断定できる特段の事案」に限定して考えるべきである。
事件番号: 昭和27(あ)5724 / 裁判年月日: 昭和28年4月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審において、第一審で適法に証拠調べが行われた鑑定書について改めて証拠調べを行わなくとも、事後審としての性格に鑑み違法ではなく、判断遺脱も認められない。 第1 事案の概要:被告人が心神喪失、心神耗弱、または緊急避難の成立を主張して上告した事案。第一審ではA医師の鑑定書について適法な証拠調べがなさ…