一 裁判所が人の精神状態を認定するには、必ずしも專門家の鑑定等による必要もなく、他の證據によつて認定しても差支えないことについては、すでに當裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第三一七號同二三年七月六日第三小法廷判決) 二 憲法第三七條の公平な裁判所の、裁判とは偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもつた裁判所による裁判を意味するのであつて、個々の事件につきその内容實質が具体的に公正妥當なる裁判を指すのではないことは當裁判所の判例(昭和二二年(れ)第四八號同二三年五月二六日大法廷判決)とするところである。
一 精神状態の認定と鑑定の要否 二 憲法第三七條にいわゆる「公平な裁判所の裁判」の意義
舊刑訴法219條,舊刑訴法337條,舊刑訴法338條,憲法37條1項
判旨
裁判所が被告人の精神状態を認定するにあたっては、必ずしも専門家の鑑定を経る必要はなく、証人の証言等他の証拠によって認定することも許される。また、憲法37条1項の「公平な裁判所」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織・構成をもつ裁判所を指し、個々の判決内容の当不当を指すものではない。
問題の所在(論点)
1. 責任能力の判断において、専門家による精神鑑定は必須か、あるいは他の証拠による認定が可能か。 2. 裁判所が精神鑑定を採用しなかったことが、審理不尽や憲法37条1項違反(公平な裁判を受ける権利の侵害)に該当するか。
規範
1. 被告人の精神状態(責任能力の有無・程度)の認定は、裁判所の専権に属する事項であり、必ずしも専門家による精神鑑定を必要とせず、他の証拠によって認定することが可能である。証拠調べの要否は裁判所の自由裁量に委ねられる。 2. 憲法37条1項にいう「公平な裁判所」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもった裁判所による裁判を意味し、個別の裁判内容の公正妥当性を指すものではない。
重要事実
被告人は、強盗傷人事件の犯行当時、酩酊状態にあった。原審は、精神状態に関する専門家の鑑定を実施しなかったが、証人の証言や共犯者の検事聴取書(被告人の犯行時の行動に関する供述)に基づき、被告人が意思能力を完全に喪失してはいないものの、通常人よりは精神状態が減退していたと判断し、心神耗弱を認定した。これに対し被告人側が、鑑定を実施しないまま事実認定を行ったことは審理不尽であり、憲法37条の公平な裁判を受ける権利を侵害すると主張して上告した。
あてはめ
1. 被告人の精神状態について、原審は共犯者の供述等から「意思能力を喪失した者の行動とは認められない」一方で「通常人と同程度の精神状態でもない」と評価した。このような評価に基づき心神耗弱を認定することは、証拠の取捨選択に関する裁判所の合理的な自由裁量の範囲内である。 2. 鑑定の申請を却下したことは証拠調べの限度を決める裁量権の行使であり、審理不尽の違法はない。 3. 本件裁判所は組織・構成上不公平な点はなく、判決内容への不服は憲法37条の問題を生じさせない。
結論
被告人の精神状態を鑑定なしに認定することは適法であり、原審の判断に審理不尽や憲法違反の違法はないため、上告を棄却する。
実務上の射程
責任能力の認定手法に関するリーディングケース。実務上、責任能力の有無は法律的判断であるとされるが、本判決は鑑定を経ない認定も許容する。答案上は、責任能力が問題となる場面で、裁判所による証拠の総合評価(行動の合目的性等)の妥当性を基礎付ける際に、裁判所の専権事項であることを示す規範として活用できる。
事件番号: 昭和30(あ)877 / 裁判年月日: 昭和30年7月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の責任能力の有無(心神喪失・心神耗弱)の判断は、精神鑑定を必須とするものではなく、被告人の言動や態度のほか、被害者の供述等の諸資料を総合して認定することができる。 第1 事案の概要:被告人両名は、本件犯行時に一定のアルコールを摂取した酩酊状態にあった。弁護人は、その酩酊が心神耗弱の程度に達し…