原審裁判所が所論検証並びに証人訊問をする旨を弁護人永田菊四郎に通知した形跡がないこと並びに同弁護人がその検証及び証人訊問に立会わなかつたこと及び原判決が右証人中Aの供述記載を証拠として採用したとしても右検証及び証人訊問には相弁護人が立会い、同証人に対して訊問をしているばかりでなく、原審第三回公判期日には右相弁護人の外弁護人永田菊四郎も出頭した公判延において裁判長は前記Aに対する証人訊問調書につき適式な証據調を行つた後被告人に対し意見弁解の有無を問い且つ利益の証據を提出し得る旨並びに供述者を証人として訊問を求むることを得る旨告げたところ、被告人は無い旨答え、各弁護人は利益の証拠はない旨供述したことが明らかであるから不法に弁護権を制限した違法があるとはいえない。
弁護権の不法制限とならない一事例。
憲法37条3項
判旨
被告人の責任能力の判定において、裁判所は必ずしも専門家による精神鑑定を必要とせず、他の証拠に基づき判断することが可能である。また、複数の弁護人がいる場合、一部の弁護人が証拠調べに立ち会い、かつ公判廷で適切に証拠調べ手続が履行されていれば、特定の弁護人への通知欠如等は弁護権の不当な制限に当たらない。
問題の所在(論点)
1. 被告人の精神状態(責任能力)の判定において、専門家による鑑定は必須か。 2. 一部の弁護人への証拠調べ通知の欠如や立会いの不在が、弁護権を不法に制限する違法な手続となるか。
規範
1. 責任能力の判断(刑法39条):被告人が心神喪失又は心神耗弱の状態にあるか否かの判定は、法律判断であるため、必ずしも専門家の鑑定を要するものではなく、他の諸証拠に基づき裁判所が合理的に判断し得る。 2. 弁護権の保障(憲法37条3項):複数の弁護人が選任されている場合、一部の弁護人に対して通知が欠け、又は立ち会いがなかったとしても、他の弁護人が立ち会い、かつ公判廷において被告人及び全弁護人に対し証拠調べ結果の告知と意見陳述の機会が十分に与えられていれば、防御権の実質を害さず、弁護権を不法に制限したものとはいえない。
重要事実
被告人が強奪等の罪に問われた事案。原審は、被告人側の精神鑑定申請を却下し、他の証拠に基づき被告人の責任能力を認めた。また、裁判所が実施した証人尋問等の証拠調べに関し、弁護人永田に対し通知がなく、同弁護人も立ち会わなかったが、他の相弁護人(小淵、大島)は立ち会い、尋問を行っていた。その後、第3回公判期日において、弁護人永田も出頭した公判廷で証人尋問調書の適式な証拠調べが行われ、被告人及び各弁護人に異議や証拠提出の機会が与えられたが、特段の申し立てはなかった。
あてはめ
1. 責任能力については、裁判所が鑑定を却下しても、原判決が挙示する他の証拠を総合すれば、被告人が犯行当時精神障害等の状態になかったことを肯定できるため、鑑定不実施は直ちに理由不備等の違法とはならない。 2. 弁護権については、特定の弁護人1名が証拠調べに立ち会えなかったとしても、他の相弁護人らが実際に立ち会い、反対尋問等を行っている。さらに、後の公判期日において全弁護人が揃った場で適式な証拠調べと弁解の機会が確保されている以上、手続的な不備は解消されており、弁護権の侵害は認められない。
結論
1. 責任能力の判定に専門家の鑑定は必須ではなく、他の証拠による認定も適法である。 2. 本件の手続経緯に鑑みれば、弁護権を制限した違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
責任能力の判断が裁判所の専権事項(法的判断)であることを確認する際に引用される。実務上は、鑑定を経ずに責任能力を否定することは慎重であるべきだが、答案上は「鑑定は必須ではない」という規範の根拠として使える。また、複数弁護人の一部欠席時の手続的有効性についても、実質的な防御権保障の観点から判断する際の指標となる。
事件番号: 昭和26(れ)570 / 裁判年月日: 昭和26年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が人の精神状態を認定するにあたって、必ずしも専門家による鑑定を必要とせず、他の証拠によって判断することも許容される。また、弁護人の精神鑑定請求を却下した上で、被告人の供述等の資料に基づき精神異常を否定しても、直ちに経験則に反するものではない。 第1 事案の概要:被告人が強盗殺人の罪に問われた…