判旨
犯罪手段としての毒物の種類を「アコニチン」から「ヂバール」へ修正することは、犯罪手段という重要な要素の誤認を是正するものであり、殺意の認定に矛盾を来さない限り、事実誤認を理由とする破棄自判として適法である。
問題の所在(論点)
犯罪手段(毒物の種類)に関する認定の変更が、判決理由の矛盾や殺意の認定に影響を及ぼす事実誤認にあたるか。
規範
第一審判決が認定した罪となる事実の一部(特に犯罪手段等の重要な要素)について誤認があり、それが刑の量定に影響を及ぼすべき場合には、控訴審は当該事実誤認を理由として原判決を破棄することができる。その際、証拠の総合的な評価に基づき、殺意等の主観的要件の認定に合理的な関連性を有する範囲で事実を確定すべきである。
重要事実
被告人が被害者に対し薬品を服用させて殺害しようとした事案。第一審は、殺意を認めつつ犯罪手段を「アコニチンを主剤とする劇毒物」と認定した。これに対し控訴審(原審)は、被害者に身体的機能障害が残らなかった事実や被告人の供述、鑑定結果を照らし合わせ、実際の服用薬品は市販の睡眠薬である「ヂバール20錠」であったと認定した。控訴審は、第一審の認定は犯罪手段の重要要素に誤認があるとして、第一審判決を破棄した。被告人側は、殺意を否定する供述と整合しない等の理由の矛盾を主張して上告した。
あてはめ
原判決は、被害者の経過や新たな鑑定結果に基づき、犯罪手段を「アコニチン」から「ヂバール」へと修正している。これは犯罪手段という客観的事実の誤りを正したものであり、第一審が認定した事実の一部に刑の量定に影響すべき誤認があったとする判断は正当である。また、被告人の殺意については、使用した薬品の種類が異なっていたとしても、当時の主観的態様や証拠関係を総合すれば殺意の存在自体は否定されず、判示の前後の論理に矛盾はない。したがって、事実誤認を理由とする破棄及び新事実の認定に違法はない。
結論
被告人の上告を棄却する。犯罪手段の細部に誤認があっても、殺意の認定に影響しない限り、事実誤認に基づく破棄自判は適法である。
実務上の射程
控訴審における事実誤認(刑訴法382条)の判断において、犯罪の「手段」が重要な要素として扱われることを示す。また、客観的手段の認定が変更されても、殺意等の主観的要件の認定が維持可能であれば、理由の矛盾とはならないという実務上の事実認定の許容範囲を示唆している。
事件番号: 昭和25(あ)2886 / 裁判年月日: 昭和26年7月17日 / 結論: 棄却
一 なおストリキニーネを混入した鮒の味噌煮が苦味を呈しているからといつて何人もこれを食べることは絶対にないと断定し難いところであるから、殺人罪の不能犯であるとの主張は容認することはできない。 二 しかるに本件第一審公判において被告人及び弁護人は検察官の取調請求にかかる被告人の司法警察員に対する供述調書及び被告人の検察官…