「未必の殺意をもつて、被害者の身体を、有形力を行使して、被告人方屋上の高さ約〇・八メートルの転落防護壁の手摺り越しに約七・三メートル下方のコンクリート舗装の路上に落下させて路面に激突させた」旨判示し、被害者を屋上から落下させた手段・方法を右以上に具体的に摘示していない場合でも、右判示は、殺人未遂罪の罪となるべき事実中の犯罪行為の判示として、不十分とはいえない。
殺人未遂罪の罪となるべき事実中の犯罪行為の判示として不十分とはいえないとされた事例
刑法199条,刑法203条,刑訴法256条3項,刑訴法335条1項,刑訴法378条4号
判旨
判決書の「罪となるべき事実」の判示において、実行行為の手段・方法を詳細に摘示せず「有形力を行使して」と抽象的に記載した場合であっても、構成要件に該当するかを判定できる程度に具体化されていれば、犯罪事実の特定として足りる。
問題の所在(論点)
判決書における罪となるべき事実の摘示(刑訴法335条1項)において、実行行為の具体的手段・方法を詳細に記載せず「有形力を行使して」等の抽象的表現を用いることは、犯罪事実の特定として適法か。
規範
刑訴法335条1項にいう「罪となるべき事実」の判示においては、被告人の行為が特定の構成要件に該当すべき具体的事実として、当該構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に、具体的かつ明白に判示されることを要する。
重要事実
被告人が未必の殺意をもって、屋上の転落防護壁の手摺り越しに、約7.3メートル下のコンクリート路上に被害者を落下・激突させたという殺人未遂被告事件において、第一審判決は、落下させた手段・方法について「有形力を行使して」とするのみで、それ以上の具体的な態様を摘示しなかった。
あてはめ
本件判示では、被告人が屋上の手摺り越しに被害者を約7.3メートル下の路上に落下させたという客観的状況が示されている。手段・方法について「有形力を行使して」との表現にとどまるとしても、前述の状況と併せれば、被告人の犯罪行為は構成要件該当性を判定できる程度に具体的に特定されている。したがって、殺人未遂罪の構成要件に該当すべき事実が明白にされているといえる。
結論
本件判決の罪となるべき事実の判示は、被告人の行為を具体的に特定しており、刑訴法335条1項の要請を満たすものとして適法である。
実務上の射程
判決書における事実摘示の程度に関する基準であるが、公訴事実の特定(刑訴法256条3項)における「犯罪の時、場所及び方法」の特定充足性を検討する際の類推材料としても活用できる。実行行為の細部が不明な場合でも、構成要件該当性の判断に支障がない限度で、概括的な記載が許容されることを示す。
事件番号: 昭和26(あ)4585 / 裁判年月日: 昭和28年7月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】犯罪手段としての毒物の種類を「アコニチン」から「ヂバール」へ修正することは、犯罪手段という重要な要素の誤認を是正するものであり、殺意の認定に矛盾を来さない限り、事実誤認を理由とする破棄自判として適法である。 第1 事案の概要:被告人が被害者に対し薬品を服用させて殺害しようとした事案。第一審は、殺意…
事件番号: 昭和46(あ)2535 / 裁判年月日: 昭和47年7月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由として判例違反を主張する場合には、違反するとされる判例を具体的に摘示する必要があり、その欠如は適法な上告理由に当たらない。 第1 事案の概要:被告人が、事実誤認および量刑不当を理由に上告を申し立てた。その際、弁護人の一人が判例違反を主張したが、どの判例に違反するかという具体的な摘示を欠いた…