関税法第一一〇条第二項の定める刑は、その所定刑期又は罰金額の範囲内で未遂の事情を参酌して、未遂減軽の規定が存する場合と実質的に同一の刑を量定する余地が十分あるのであつて、このような法定刑の定め方を以て一般刑法に比し不合理として憲法第三一条に違反するということはできない。このことは当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一〇三三号、同年一二月一五日大法廷判決、集二巻一三号一七八三頁)の趣旨に照らし明らかである。(上告諭旨の要旨=関税法第一一〇条第二項が既遂未遂を同一刑に処するとすることは、憲法第三一条に違反する。)
関税法第一一〇条第二項の合憲性。
関税法110条1項,関税法110条2項,憲法31条,刑法43条,刑法66条
判旨
関税法110条2項が未遂罪を既遂罪と同一の法定刑に処している点は、裁判官の裁量により未遂の事情を参酌して実質的に刑を減軽する余地があるため、憲法31条に違反しない。
問題の所在(論点)
未遂を既遂と同一の法定刑(五年以下の懲役等)に処する関税法110条2項の規定が、刑法上の未遂減軽の原則と比して著しく不合理であり、憲法31条に違反するか。
規範
刑罰を定める法律の規定が憲法31条に違反するか否かは、その法定刑が不当に過酷であり、合理性を欠くか否かによって判断される。未遂を既遂と同一の法定刑に処する場合であっても、法定刑の範囲内において未遂の事情を参酌し、実質的に減軽された刑を量定する余地があるならば、その規定は直ちに不合理とはいえず、憲法に違反しない。
重要事実
被告人が関税法違反(密輸罪の未遂等)に問われた事案において、弁護人は関税法110条2項が未遂を既遂と同一の刑に処していることを問題視した。刑法一般には未遂減軽の規定(刑法43条)が存在することから、これと比較して同項の規定は不合理であり、適正手続を定める憲法31条に違反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和37(あ)1253 / 裁判年月日: 昭和38年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法36条の「残虐な刑罰」とは、刑罰そのものが不必要な精神的・肉体的苦痛を内容とする人道上残酷なものを指し、法定刑の選択や量定の不当を含まない。また、憲法37条1項の「公平な裁判所」とは、偏頗のない組織・構成の裁判所を意味し、被告人間での刑の不均衡はこれに直ちに反しない。 第1 事案の概要:被告人…
あてはめ
関税法110条2項の法定刑は「5年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金、又はその併科」である。懲役の下限は1月、罰金の下限は1000円であり、その幅は極めて広い。したがって、裁判官は具体的事件の量刑において、未遂であるという事情を十分に参酌し、未遂減軽の規定がある場合と実質的に同一の刑を言い渡すことが可能である。このように、運用上の調整が可能である以上、刑法一般との権衡を欠く不合理な定めとはいえない。
結論
関税法110条2項は憲法31条に違反しない。
実務上の射程
刑事法における法定刑の合憲性判断に関する射程を有する。特に特別刑法において刑法総則の減軽規定を排除、あるいは独自の法定刑を設定している場合でも、裁判官の量刑裁量によって実質的な不均衡が解消され得るならば合憲とされる傾向を示す。司法試験では罪刑法定主義や適正手続(31条)の文脈で、法定刑の合理性が争点となる際の比較対象として有用である。
事件番号: 昭和31(あ)1754 / 裁判年月日: 昭和31年12月20日 / 結論: 棄却
本件廻航が所論のごとく関税法二条一号にいわゆる引き取りの準備行為であつて、その着手とすることができず、従つて、原判決の同条号の解釈、適用が誤つているとしても、関税法一一一条二項によれば密輸入の予備をした者は密輸入の実行に着手してこれを遂げない者と同じく同条一項の例によるものであるから、右の違法は判決に影響を及ぼすべき法…
事件番号: 昭和57(あ)631 / 裁判年月日: 昭和58年2月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】大麻取締法が定める法定刑は、違反行為の罪質に対して著しく均衡を欠くものとは認められず、憲法31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は大麻取締法24条2号(輸出入等)および同法24条の2第1号(所持等)の罪に問われた。これに対し、弁護人は同法が定める刑罰が重すぎて違反行為の罪質と均衡を欠いてお…
事件番号: 昭和49(あ)1185 / 裁判年月日: 昭和49年9月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】未決の余罪を量刑の資料として考慮することは、実質的に当該余罪を処罰する趣旨でない限り、憲法31条に違反せず許容される。 第1 事案の概要:被告人の刑事裁判において、第一審裁判所が被告人の余罪を量刑の資料として用いた。弁護人は、これが実質的に余罪を処罰するものであるとして、憲法31条(適正手続)違反…