諭旨は、原判決の刑訴二五五条第一項の解釈を非難するけれども、同項前段の「犯人が国外にいる場合」は、同項後段の「犯人が逃げ隠れている」場合と異なり、公訴時効の進行停止につき、起訴状の謄本の送達もしくは略式命令の告知ができなかつたことを前提要件とするものでないことは該規定の明文上疑いを容れないところであり、また、犯人が国外にいる場合は、捜査官において犯罪の発生またはその犯人を知ると否とを問わず、犯人の国外にいる期間、公訴時効の進行を停止するものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところである。(昭和三五年(あ)第七三五号同三七年九月十八日第三小法定判決参照)。
刑訴法第二五五条第一項前段の法意。
刑訴法255条1項
判旨
公訴事実の特定(刑訴法256条3項)に関し、犯罪の性質上、日時・場所・方法を詳細に特定できない特殊事情がある場合には、審判対象の画定と被告人の防御権行使に支障を来さない限度で、幅のある表示による特定も許容される。
問題の所在(論点)
犯罪の日時を約6年間の幅で、場所を単に本邦内とする起訴状の記載は、刑訴法256条3項にいう公訴事実の特定を欠き、無効となるか。
規範
刑訴法256条3項が公訴事実に犯罪の日時、場所及び方法を明示して特定すべきとする趣旨は、裁判所の審判対象の限定と、被告人の防御範囲の明示にある。したがって、犯罪の種類や性質上、これらを詳細に明らかにできない特殊事情がある場合には、右法の目的を害さない限度の幅のある表示をしても、直ちに罪となるべき事実の特定を欠き違法となるものではない。
重要事実
被告人は、有効な旅券を受けずに中華人民共和国へ出国したとして出入国管理令違反で起訴された。起訴状には、犯罪日時が「昭和28年1月頃より同34年12月初旬頃までの間」、場所が単に「本邦内より」と記載され、具体的な方法は表示されていなかった。検察官は冒頭陳述等で、被告人が昭和28年1月頃まで本邦に在住し、その後所在不明となり、同34年12月にオランダ船で中国から帰国したことを明らかにした。
あてはめ
密出国のように、外交関係のない国へ密かに赴いた場合は具体的顛末の確認が極めて困難であり、特殊事情が認められる。本件では、起訴状の記載に加え、公判における検察官の陳述によって、審判対象は自ずから明らかとなっている。また、これにより被告人の防御範囲も限定されているため、防御に実質的な障害を与えるおそれはないといえる。したがって、日時・場所・方法の概括的記載も、特定を欠くものとはいえない。
結論
本件公訴の提起は、公訴事実の特定を欠くものではなく有効である。
実務上の射程
共謀罪や組織的な不法出国など、密行性が高く証拠の収集が困難な事案において、特定を緩和する際のリーディングケースとして活用される。あてはめでは「特殊事情の存否」と「防御権への実質的支障の有無」の二点から論じるべきである。
事件番号: 昭和34(あ)1415 / 裁判年月日: 昭和38年1月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】犯罪の日時、場所、方法を詳らかにできない特殊事情がある場合には、審判対象の画定と防御権行使という法の目的を害さない限りの幅のある表示であっても、公訴事実の特定(刑訴法256条3項)に欠けるものではない。 第1 事案の概要:被告人は日本人であるが、昭和29年1月から6月下旬までの間に、有効な旅券に出…